氏   名
くぎぬき やすひさ
釘 貫 靖 久
本籍(国籍)
和歌山県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
乙 第42号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
Brassica属野菜の根こぶ病抵抗性育種に関する研究
(Studies on breeding of clubroot-resistance in Brassica vegetables)

論文の内容の要旨

 根こぶ病はアブラナ科野菜の重要病害であり、休眠胞子の形態で土壌中で長く生存するために、難防除病害で、根こぶ病抵抗性(CR)品種の育成が求められ、現在では多くのCR品種が市販されている。しかし、CR品種の普及とともに、CR品種が罹病化する事例が増加し、これがCR育種の際に大きな障壁となっている。本研究では、CR品種の罹病化原因の解明、およびDNAマーカーを用いた選抜検定方法の確立を試みた。

 第1章では、CR品種を罹病化する根こぶ病菌を日本各地から収集し、根こぶ病接種検定を行った。菌問で、罹病性品種'無双'に対する病原力にほとんど差が認められなかったが、これら菌に対するCR'中間母本(CCPL)農1号'の発病指数には有意差が認められ、一部の菌はCR'CCPL農1号'を激しく罹病し、罹病化を確認した。また、菌問でI無双の発病指数には有意差がなく、'CCPL農1号'の発病指数に有意差が認めらたことから、根こぶ病菌の病原性に差があるのではないかと推定された。

 Ano-01菌を用いた接種検定試験では、一部のCR品種で、20℃前後よりも30℃前後で発病が助長され、発病助長程度に品種・系統問差異が認められた。さらに、32℃一28℃の温度条件での選抜後代は、22℃一18℃での選抜後代よりも、低抗性が高いことを確認した。しかしながら、高温での選抜後代においても、高温条件下では罹病化個体の頻度が高いこと、および抵抗性育種素材であるCR飼料用カブは30℃前後の高温条件でも安定した抵抗性を示すことから、高温条件がCR品種の罹病化の主因ではないと推定された。

 第2章では、第1章でCR'CCPL農1号'に対する病原力が強かった10菌を選び、これらを接種源として、WilliamsおよびEDCのレース判別品種およびBrassica属のCR品種・系統を用いて接種検定を行った。検定結果から、供試した10菌について従来のレース検定法ではレース判別が困難であることが明らかとなったが、複数の市販CRF1ハクサイ品種を用いた時の抵抗性反応から、根こぶ病の病原性の分化を確認することができた。これは、F1品種のCR遺伝子が判別品種のそれらよりも品種・系統内での均一性が高いためであると推定された。これらハクサイの低抗性反応から、根こぶ病菌を4グループに分類することが可能であった。また、異なる病原性を持つ、各々の菌に対するCR遺伝子の存在、およびCR飼料用カブはこのような複数のCR遺伝子を持つ可能1性が示唆された。

 異なる病原性に対して、抵抗性反応が異なる各CR遺伝子座と連鎖したDNAマーカーを検索し、これを利用した選抜方法を確立することで、CR遺伝子を集積した新しいCR品種の育成が可能になると考えられる。このようなマーカー検索には、遺伝的に固定した系統が不可欠である。しかし、Brassica属野菜は自家不和合性を持ち、自殖弱勢が発現することから、自殖を繰り返すことで多くの純系を作出することは困難である。

 そこで、第3章では、小胞子(未成熟花粉)培養による半数体倍加系統(DH)の作出を試みた。ハクサイ小胞子からの効率的な植物再生条件を検討し、20℃、14~166時間日長で栽培した植物体を材料とし、小胞子由来の胚様体を培養開始から3~4週問後にO.5~0.8%ゲランガム培地に継代し、サージカルテープを利用することで、小胞子培養における植物体再生率が向上し、効率的に植物体再生が行えることを明らかにした。

 小胞子培養の難易は遺伝子型の影響を強くうける。そこで、ハクサイおよびキャベツ小胞子からの植物体再生能の品種・系統問差異を調査した。その結果、ハクサイ'Homei'およびキャベツ'松波'の植物体再生能が高いことを明らかにした。また、胚様体形成能と胚様体からの植物体再生能に関与する遺伝子が異なっている可能性を示唆した。さらに、'Homei'および'松波'小胞子由来の再分化植物では、多くの個体が2倍体化しており、種子稔性が高かった。以上の結果、'Homei'および'松波'は、小胞子からの植物体再生能および再分化植物の自然倍加率が高く、半数体倍加系統を育種および遺伝学に適用する際に適した性質を備えた品種であると考えられた。

 第4章では、CR遺伝子と連鎖したRAPDマーカーの検索を試みた。小胞子培養系を用いて、高再分化能を持つ根こぶ病罹病性'Homei P09'とCR'Siloga S2'とのF1小胞子由来の36DHを得、これらDH系統のRAPDの有無と根こぶ病抵抗性程度から、3個のRAPDマーカーを見いだした。これらは、Ano-01菌に対するCR遺伝子と連鎖していた。さらに、これら3個のRAPDマーカーの塩基配列からSTS化したプライマーを設計し、より信頼性の高いDNAマーカーを作出した。これらマーカーの有無は、F2個体において元のRAPDの有無と一致した。以上から、本マーカーはB.rapaにおいて根こぶ病抵抗性と連鎖したDNAマーカーとして、実際育種など多様な場面で利用可能であると考えられた。