氏   名
Kato,Akio
嘉 戸 昭 夫
本籍(国籍)
富山県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
乙 第39号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
スギ人工林における冠雪害抵抗性の推定とその応用に関する研究
(Study on the approach for estimating resistance of Japanese cedar to snow accretion damage and its application.)

論文の内容の要旨

 スギ人工林の冠雪害は、多量の降雪が枝葉に付着・堆積し、その荷重によって発生する代表的な気象災害の一つである。我が国における被害発生の危険性は、北陸地方とりわけ富山県の里山一帯で最も高いことが指摘されている。被害を防除し軽減するには、間伐や枝打ちなどの林木保育による立木の冠雪害抵抗性を強化する方法、および冠雪害抵抗性の大きい樹種・品種を植林する方法が有効とされているものの、未解明な点が多い。その場合、冠雪害抵抗性を正確に評価する基準の確立が不可欠である。

 従来、その基準として、樹幹形状比(=樹高/胸高直径)が広く採用されてきた。しかし、樹幹形状比だけでは不十分であり、冠雪害の発生を予測出来ないことが、近年、明らかにされた。中谷(1991)は冠雪害の発生機構を力学的に解析し、単一立木の冠雪害抵抗性を評価する基準として限界降雪量を提案した。中谷の限界降雪量は、評価基準としては妥当であるが、冠雪荷重、林木の耐力に関する数多くの項目など、基準値それ自体の測定に多大の労力と時間を要し、実用性の面で課題が残されていた。

 本研究は、①中谷の手法を改良し、樹高、胸高直径、林齢の3項目から冠雪害抵抗性の強弱を推定するシステムを確立して、簡便で実用的な基準、新限界降雪量を完成させること、②その推定システムを用い、冠雪害の発生を防除・軽減できる品種選択と林木保育方法について検討することを目的とし、富山県の里山一帯のスギ人工林を研究の対象として、冠雪害の発生実態調査、冠雪荷重実験、林木の耐力実験、実地施業試験が実施された。

 気象条件や立地条件の類似する同一林内では、樹幹形状比が幹折れ、幹曲りなどの折損タイプと、傾幹、根返りなどの根返りタイプに2大別される被害木と無被害木の判別に有効であった。しかし、林分の冠雪被害率の差異を樹幹形状比の林分平均値で説明することは出来なかった。また、林分の冠雪被害率は品種間に有意な差異が認められたが、この差異を樹幹形状比の林分平均値で説明することは出来なかった。冠雪害の発生を樹幹形状比だけでは予測出来ないことが再確認された。

 富山県内の主要なスギ品種を対象とし、冠雪害の被害木と樹高、胸高直径が同サイズの林木の冠雪荷重を、冬期間反復観測した。冠雪荷重は、葉量が同じであれば品種間に有意な差異が無かった。ただし、林木サイズの等しいボカスギは、タテヤマスギよりも葉量が多いため、冠雪荷重が大きく、冠雪害に弱い一因になると考えられた。また、個体当たりの冠雪荷重は降雪量が多いほど大きいが、単位葉量当たりの冠雪荷重は、葉量の0.86乗に比例することから、高齢で葉量の大きな林木ほど小さくなることがわかった。

 林木の最大耐力(最大座屈荷重)は、樹幹形、樹幹ヤング率、および根系支持力から計算式で求めることを可能にした。このうち、樹幹ヤング率は、品種によって著しく大きな変動があり、このことが冠雪害抵抗性の品種間差異の一因となっていること、および同一品種でも加齢と共に増大し大きく変動することが明らかにされた。根系支持力は個体サイズによって変化し、サイズの小さい個体ほど支持力の変化は大きく、品種による差異は無いことがわかった。

 スギの冠雪害抵抗性の強弱には樹高、胸高直径などの林木サイズ、および林齢が深く関わりのあることが明らかにされた。そこで、冠雪害抵抗性の基準として指数化された中谷の限界降雪量(冠雪害を受ける時の降雪量)を、樹高、胸高直径、および林齢から容易に求めることが出来るよう改良した。この改良された新限界降雪量の推定手法は、ボカスギ林の間伐区と無間伐区の立木の冠雪害抵抗性の評価に有効であることが実証された。また、ボカスギのシステム収穫表を用い、種々の間伐を想定した場合の成長予測を行ったところ、冠雪害抵抗性の向上効果は、間伐強度(材積間伐率)が同じ場合には全層間伐や上層間伐よりも下層間伐が大きいこと、強度の間伐ほど大きいこと、間伐時期が早いほど大きかった。若齢林を対象とする通常の枝打ちは、冠雪害抵抗性を向上する効果が小さかった。

 以上のことから、スギ人工林の冠雪害の防除対策としては、あらかじめ新限界降雪量の推定手法によって樹幹耐力を評価し、①降雪量や気温などから冠雪害危険地帯区分を行い、その危険地を回避して植林すること、②冠雪荷重が小さく、樹幹耐力の大きい品種を選ぶこと、③樹幹耐力を大きくする間伐指針を作成して適切な密度管理を行うこと、が有効となった。