氏   名
NIwa,katsuhisa
丹 羽 勝 久
本籍(国籍)
大阪府
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第156号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物環境科学専攻
学位論文題目
十勝管内に分布する細粒質褐色低地土の作物生産力低下要因の解明と改良方法
( Studies on Factors of Decrease in Productivity of Fine-Textured Brown Lowland Soils in Tokachi District and Their Improvement.)

論文の内容の要旨

【目的】

 北海道十勝管内に分布している細粒質褐色低地土は、従来、理化学性が良好で、作物生産力の高い土壌と位置づけられてきた。しかし、近年、その生産力は低下傾向にあり、何らかの作物生産力低下要因が生じていると考えられた。そこで、本論文では、幕別町相川地区の沖積平野(約900ha)を調査対象地区として、細粒質褐色低地土の作物生産力低下要因の解明とその改良方法を検討することを目的とした。

【細粒質褐色低地土の作物生産力低下要因の想定】

 土壌断面調査による細密土壌図を作成した結果、本地区では、褐色低地土が主に分布していた。小河川付近は中粒質で、小河川から離れると細粒質であった。 土壌断面調査の結果、両土壌の作土直下土層(深さ約30~50cm)では、堅密で連結状構造の発達が見られ、その傾向は細粒質褐色低地土で著しかった。その土層は1965年調査時の耕地や未耕地では見られず、物理性が不良化していた。

 以上の結果から、作物生産力低下要因は、トラクタの踏圧および練り返しによる耕盤層の生成であると想定した。

 細粒質褐色低地土の耕盤層発達が著しい理由として、土壌圧縮の大小にかかわらず、易有効水分孔隙率が5%前後と著しく小さいことや、塑性指数が大きく、土壌踏圧を受ける可能性が高いことなどが考えられた。

【耕盤層が作物生育に及ぼす影響】

 耕盤層が作物生育に及ぼす影響を、細粒質褐色低地土と耕盤層発達の弱い中粒質褐色低地土、黒ボク土および多湿黒ボク土の土壌水分動態、テンサイの根系発達を比較することで検討した。

 細粒質褐色低地土の耕盤層では、重力水孔隙率および易有効水分孔隙率が、他の土壌より著しく小さいために、降雨、無降雨にかかわらず、気相率がほぼ5%以下で推移した。

 細粒質褐色低地土のテンサイ根は、耕盤層により、その伸長が著しく阻害されていた。その結果、主に、下層土へ根が伸長するのは生育中期以降であり、他の土壌より遅れた。

 テンサイの収量には、中期までの生育が影響を及ぼした。また、細粒質褐色低地土のテンサイ収量は最も低く、十勝中央部の目標収量以下であった。

 以上のことから、細粒質褐色低地土のテンサイ根の吸水は、生育中期まで、乾湿の変動が大きい作土と、気相率の小さい耕盤層で行われているために、最終収量が他の土壌に比べて劣ったと考えられた。したがって、細粒質褐色低地土では耕盤層破砕が必要である。

【細粒質褐色低地土畑の耕盤層破砕工法の検討】

 耕盤層発達の著しい細粒質褐色低地土畑で、耕盤層破砕工法を検討した。工法は、ブルドーザを用いた心土破砕、改良心土破砕および深耕による全層反転である。

 各工法の耕盤層破砕面積は、全層反転区≒改良心土破砕区、心土破砕区の順に大きく、その部分では容積重の低下および重力水孔隙率の増加(8~12%)が見られた。一方、易有効水分孔隙率は各区で差がなく、5%前後と著しく小さかった。

 テンサイの根系発達は、全層反転区および改良心土破砕区で良好であり、生育中期には下層まで根系が多く分布していた。

 テンサイの収量は、全層反転区および改良心土破砕区で高く、無処理区に比べて、10~20%の増収であった。

 以上のことから、テンサイの根系発達は重力水孔隙率の大小に影響を受けていると考えられた。そのために、全層反転および改良心土破砕の施工は、テンサイの早期根系発達、および重力水孔隙率の増加に伴う通気性および透水性の改善を促し、その結果、収量が増大したと考えられた。

 したがって、施工1年目の結果、耕盤層破砕工法として、全層反転および改良心土破砕の有効性が認められた。

【農家慣行施工による耕盤層破砕工法の実証】

 改良心土破砕は、農家慣行のトラクタで施工が可能なので、その実証を行った。供試作物としてレタスを用いた。 改良心土破砕の施工により、破砕部分を中心に容積重の低下および重力水孔隙率の増大が認められた。また、その破砕面積、破砕深度はブルドーザによる施工と同程度であった。

 レタスの根系発達は無処理区に比べて良好であり、その結果、玉揃いが良好化した。また、改良心土破砕区では、玉揃いの良好化により、商品化率が増加し、その結果、収穫作業の節減が図られた。

 以上のことから、農家慣行による改良心土破砕の施工で、耕盤層対策が可能になるものと考えられた。