氏   名
Katsube,kazunori
勝 部 和 則
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第154号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物環境科学専攻
学位論文題目
ホウレンソウ萎ちょう病に関する研究
(Studies on Fusarium Wilt of Spinach) 

論文の内容の要旨

  本研究では,岩手県におけるホウレンソウ土壌病害の発生実態を調査し,主要な病害である萎ちょう病の病原菌(Fusarium oxysporum f. sp. spinaciae)の分離率および菌糸和合性群(vegetative compatibility group, VCG)による類別によって発生実態の解析を試みた。さらに本病の農薬を用いない防除技術を検討した。以下にその概要を述べる。

 Ⅰ.岩手県のホウレンソウ産地における土壌病害の発生実態

 ホウレンソウの主要産地である遠野市,西根町,山形村で6~9月穫り作型において萎ちょう病,根腐病,立枯病および株腐病の発生を確認した。発生様相は産地間で異なり,遠野市では主に萎ちょう病と根腐病が発生し,西根町では特に根腐病の発生が多かった。山形村では少発ながら萎ちょう病が発生した。発生実態の違いは土壌型や連作年数では説明できなかった。さらに,萎ちょう病は上記産地を含む14市町村で広域に発生がはじめて確認され,今後の発生拡大が懸念された。

 Ⅱ.ホウレンソウ萎ちょう病菌の病原性検定法の確立

 簡便かつ多数の試料の検定が可能な病原性検定法を確立した。病原菌の土壌菌量は102~104cfu/乾土gで発病を起こす。液体培養による芽胞状菌体でも汚染土壌を用いた場合と発病傾向が一致した。また,病原菌の接種は出芽~子葉期に行うと発病度が最も高かった。検定品種には感受性の高い「おかめ」が適した。本法によって産地毎に病原菌分離率を調べた結果,遠野市で91.7%と最も高く,次いで山形村で69.0%であった。西根町は45.3%と低かった。

 Ⅲ.ホウレンソウ萎ちょう病菌の菌糸和合性群による類別とその分布

 わが国および岩手県における本菌VCGの地理的分布および圃場内の分布について検討した。その結果,VCG 1,VCG 2が16府県のホウレンソウ産地に広く分布し,VCG 3は岩手県でのみ確認された。岩手県では3 つのVCGすべてが分布しており、その構成比はVCG1がVCG 2、VCG 3を上回った。圃場内ではVCG 1が優占し,他のマイナーなVCG 2、VCG 3とともに多様性な分布を示した。また、岩手県における分離株のVCG構成には季節的な変動がみられ,VCG 2およびVCG 3は夏作で構成比が高まるが,秋作では検出されなかった。一方,VCG 1は常に優占し,夏から秋に作型が進むにつれて構成比が高い。このことから,VCG 1は連作に伴って蔓延しやすい可能性が示唆された。本研究で既知のVCGに属さない病原菌を見出したが,これらは菌糸和合性が低かった。

 Ⅳ.病原性検定法を利用したホウレンソウ萎ちょう病の品種抵抗性の検定

 先に確立した病原性検定法を品種の抵抗性検定に応用した。病原菌5菌株を用いた各品種の発病指数の平均を基に,度数分布により抵抗性を「強」,「やや強」,「中」,「やや弱」,「弱」の5段階に区分し,さらに各区分に対応する比較品種を決定した。これにより,比較品種を供試して品種抵抗性の検定が可能となった。

 Ⅴ.ホウレンソウ萎ちょう病の防除

 〔1〕非病原性フザリウムを利用したホウレンソウ萎ちょう病の防除

 ホウレンソウ根から分離した非病原性のF. oxysporumのうち6菌株が本病の発病を抑制した。それら中で主にS3HO3菌株を用いて防除法を検討した。土壌接種では本菌株が病原菌より先に接種される必要がある。しかし,土壌接種では収穫期まで発病抑制効果が持続しないため,本菌株を接種した床土(106個/g)で育苗した苗を汚染土壌に移植した。その結果、収穫期まで効果が持続する方法を開発した。まず,本菌が6科17種の作物に病原性のないことを確認した上で,本病の常発圃場において,本菌株を接種した苗を移植したところ,発病抑制が起こり,土壌消毒と同等の防除効果が認められた。さらに,本菌株はホウレンソウ立枯病や他作物のフザリウム病に対しても有効であった。

 〔2〕太陽熱を利用した土壌消毒によるホウレンソウ萎ちょう病の防除

 岩手県における太陽熱利用による土壌消毒法の適用性を検討した。土壌消毒に有効な地温(深さ10cm,40℃以上)を確保するために被覆を二重とし,処理後は不耕起とした場合,6~7月の1ヶ月間の処理によって有効地温を131時間確保でき,高い防除効果が確認された。

 〔3〕キチン質資材を利用したホウレンソウ萎ちょう病の発病軽減効果およびその持続性

 キチン質資材としてカニ殻発酵資材を用いた。ポット試験および圃場試験の結果,土壌消毒をした後に本資材を施用することによって発病の軽減を図ることができるが,汚染土壌に直接施用した場合,発病軽減効果は低いことが明らかとなった。そこで,初年目に土壌消毒した常発圃場で,3カ年間にわたり,資材の連年施用あるいは隔年施用等施用条件に関する検討を行った結果,本資材を毎年1回施用することで発病軽減効果が持続するすが,隔年施用では無施用年に本病の増加がみられることを明らかにした。