氏   名
Kohama,keiko
小 浜 恵 子
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第152号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物資源科学専攻
学位論文題目
アワ、キビ、ヒエの種子貯蔵タンパク質の構造と生理機能性
(Composition of storage protein from foxtail, proso and Japanese millets and food functionality)

論文の内容の要旨

 本研究においては、岩手県特産穀類であるアワ、キビ、ヒエについて種子貯蔵タンパク質の構造を明らかにすることを第1の目的とした。
イネ科作物では主要穀類であるコムギ族の小麦、大麦、ライ麦及びキビ族トウモロコシについては、主貯蔵タンパク質プロラミンの構成について詳しく検討されているが、雑穀類に関する知見はほとんどなく、本研究において初めて個々のポリペプチド構成及びアミノ酸組成の特徴等を明らかにした。さらに雑穀の興味深い機能性である脂質代謝への影響、すなわちキビタンパク質をラット及びマウスに投与した場合にカゼインに比べて、血漿中HDLコレステロール濃度が有意に上昇する機構の解析を第2の目的とした。本研究においては雑穀類のペプチドのヒト腸管細胞におけるアポタンパク質の発現への影響を検討し、HDLの主アポリポタンパク質であるapoA-ImRNAの増加への関与を明らかにした。

 本研究結果により得られた知見は以下の通りである。

1) アワ、キビ、ヒエの種子主貯蔵タンパク質はプロラミンであった。アワは室温抽出可能であったのに対し、キビ、ヒエは70%アルコールによる室温での抽出ではほとんど抽出されず還元剤の存在下で若干抽出された。これは同じキビ属のアワに比べて内部のS-S結合により強固な高次構造をとっているものと思われる。キビに関しては加温してアルコール抽出することにより、抽出率が増大し、抽出されたタンパク質はアミノ酸組成の特徴からプロラミンに分類されるものであった。

2) アワ、キビのプロラミンのポリペプチド構成はアミノ酸組成の特徴から2つに分類されることが判った。1つはプロラミンの主成分である27~19 kDaの主ポリペプチドであり、ロイシン、アラニンが非常に多く総プロラミンにおけるこれらアミノ酸の割合の高さを反映するものである。もうひとつのグループは14 ~17kDaのポリペプチドであり、プロリン、メチオニン、システィンに富むものである。特にアワに関しては、還元剤存在下のアルコール抽出画分中にメチオニン含量の非常に高い(15mol%)15 kDaのポリペプチドも見いだされた。

3) ロイシン、アラニン含量が高いアワ、キビプロラミン中のポリペプチドのN末端配列はトウモロコシゼインの主サブユニットαゼインに相同性を示し、アミノ酸組成も共通性が見られた。また含硫アミノ酸の多いポリペプチド群は溶解性やアミノ酸組成からβゼインに相似するものと思われた。さらにγゼインと同様に還元剤存在下で水溶性であるglutelin-like画分からは、特徴的にプロリン含量の高いポリペプチドが存在し、N末端配列はγゼインの繰り返し配列に相同性のある配列もみられた。これらのことは、キビ属アワ、キビのプロラミンのサブユニット構成は同じキビ亜科であるゼインに似たものであることを示唆するものである。

4) アワ、キビ、ヒエのプロラミンポリペプチドの品種間差を岩手県内の栽培種で確認したところ、アワにおいては品種によって19kDaのポリペプチドを有しないものもあり、調べた範囲においては穂型の差異と一致していた。キビについては今回の分離条件では明確な差異はみられず、ヒエに関してはポリペプチド構成から2種に分けられた。

5) 雑穀(キビ)プロラミンのペプシン消化ペプチドを、ヒト結腸癌由来細胞Caco-2を吸収細胞様に分化させた条件において粘膜側に添加した場合、有意にapoA-ImRNA量が増大するという結果を得た。ApoA-I遺伝子発現に関わる本結果は新規のものである。キビタンパク質が有意に血漿中のHDL、apoA-I濃度を上昇させるメカニズムの一部である可能性を示唆するものである。in vivoでの効果検討の予備試験としてキビプロラミンをラットに投与したところ、成長にはまだ不足のアミノ酸がみられた。

 本研究におけるこれらの結果はキビ属雑穀プロラミンの新しい知見であるとともにイネ科プロラミンの分化の考察にも有用である。また、栽培品種の栄養特性解析にも寄与するものであり、岩手県内において使用されている雑穀品種の系統的解析に利用価値がある。さらに今後、雑穀を有用な植物タンパク質食品として活用することにも貢献するものである。腸管細胞で得られた結果をin vivoにフィードバックして検証することにより、健康イメージが先行している雑穀の生理機能を明らかにし、魅力ある食品としての高付加価値化を図ることが期待できる。