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Soma, Akiko 相 馬 亜希子 |
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日 本 |
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博士(農学) |
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甲 第148号 |
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平成12年3月24日 |
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学位規則第4条第1項該当 |
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生物資源科学専攻 | ||
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古細菌におけるclass II tRNAの認識機構 (The recognition system of class II tRNA in Haloferax volcanii)) | ||
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生体における分子認識には高度な厳密さが必要とされる。細胞内にある数十種類のtRNAはみな同じ様なクローバー葉型の二次構造、L字型の立体構造をとっており、その中で20種類のそれぞれのアミノアシル-tRNA合成酵素は自分に対応しているtRNA分子だけを厳密に識別してアミノ酸を結合していかなくてはならない。このtRNAアイデンティティーの決定のメカニズムに関しては、真正細菌である大腸菌において精力的に研究されており、たいていの場合、共通のL字構造の中の少数の特徴的な塩基の組み合わせをアミノアシル-tRNA合成酵素が塩基特異的に認識することでtRNAアイデンティティーの決定が行われるということがわかってきた。ただし、例外的に長いバリアブルアームを持つセリンとロイシンのtRNAに関しては、それに対応するアミノアシル-tRNA合成酵素が他のアミノ酸種のものとは異なり、立体構造を中心とした識別という実にユニークな認識方法を用いている。一方、真核生物である酵母では大腸菌の場合とは大きく異なり、セリンおよびロイシンのtRNAの認識・識別は、tRNAの立体構造の違いには依存しておらず、通常のtRNAに見られるもののように特定の部位における塩基の違いに依存したものであった。 本研究は、こうした分子認識のメカニズムが進化の過程でどのように変化しているのかについて調べることを目的として、真正細菌や真核生物とは異なる古細菌に属する高度好塩菌、Haloferax volcaniiにおけるセリンおよびロイシンのtRNAの認識・識別様式を明らかにした。なお、長いバリアブルアームを持ったtRNAは、真正細菌、クロロプラスト、ミトコンドリアではセリン、ロイシン、チロシンの3種類、真核生物や古細菌ではセリン、ロイシンの2種類というように、進化の過程でその種類を変える。こうしたtRNAの形や数の変化がアミノアシル-tRNA合成酵素の進化そしてtRNAの認識戦略にどのような影響を与えるかという点に関して明らかにすることを通して、生体高分子の認識に新しい概念を与えようとする点が本研究の特色である。 本研究の結果、高度好塩菌Haloferax volcaniiのセリンおよびロイシンのtRNAの認識・識別が立体構造を中心としているという点においては酵母より大腸菌のものに似たものであったが、具体的な認識方法は大腸菌とも異なる独自の方法を進化させていることが明らかになった。また、酵母のセリル-およびロイシル-tRNA合成酵素は対応するtRNAとは異なるtRNAに対して比較的寛容であるのに対して、古細菌のセリルおよびロイシル-tRNA合成酵素は大腸菌に見られたような排他的なものであった。 本研究は、アミノアシル-tRNA合成酵素の認識の進化が対応しないtRNAの数や形に大きく左右されるという実験結果を通して、「"対応しないtRNAをいかに排除するか"ということが、tRNAのアイデンティティーの進化にとってのdriving forceとなっている」という新しい概念を打ち立てたものである。 |