氏   名
Lin,Xue gui(リン シェークイ)
林  学 貴
本籍(国籍)
中 国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第147号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物生産科学専攻
学位論文題目
中国における「緑色食品」の認証システムと生産の課題
(A Study of the Certification System and Production Issues of “Green Food"in China)

論文の内容の要旨

 中国では1990年代はじめから生態環境保全と食料安全保障の重要な政策の一つとして「緑色食品」の開発が掲げられている。「緑色食品」とは、食品の品質の向上を図りながら、特定の認証基準に基づき、専門機構に認証され、「緑色食品」(AA級の緑色食品とA級の緑色食品を含む)という商標の使用許可を得、化学合成肥料・農薬・食品添加物などの使用を禁止(または制限)された食品(原料及ぴ加工品を含む)である。

 これまで、「緑色食品」に関する研究はいくつかの視点から展開されているが、残されている課題はまだ多くある。特に、「緑色食品」の認証と生産の展開の概観とそこに内在している課題を実証的に分析する必要がある。

 本論文では、「緑色食品」事業の一層の推進・定着のために、中国における「緑色食品」に関する認証・管理機構、研究機関の既存資料と「緑色食品」生産地域での実態調査に基づいて、中国における「緑色食品」誕生の歴史的背景を整理し、「緑色食品」の認証システムづくりの過程とその現状を明らかにした。それを踏まえたうえで、「緑色食品」生産の展開過程と現状を考察し、生産の実態とそこに内在す問題点を唐海県におけるA級の緑色食品米生産の事例を対象として明らかにした。さらに、これらの分析によって、「緑色食品」の認証システムと生産の課題を考察した。

 最初に、「緑色食品」の誕生を国民の食生活向上の要求と食品汚染との矛盾、広がる農業生態環境問題と中国農業の持続的発展への模索、国際的に高まる農産物の安全性志向と中国の農産物輸出戦略という三つの視角から整理し、「緑色食品」生産が行われる背景を明らかにした。次に、「緑色食品」の認証システムについて、1989年末から91年までの認証システムの基盤構築、92年から95年までの認証組織と基準の整備、96年からの認証システムの充実・強化という三つの時期の段階的な認証システムづくりの特徴を明らかにした。その上で、認証組織、認証基準、認証手続き、検査体制という視点から「緑色食品」の認証システムの現状を整理し、認証の問題点を明確にした。分析の結果は中国では認証システム作りは生産に先立って行われており、「緑色食品」生産の推進成果と関連していることを示している。

 「緑色食品」生産は90年から91年まで政府主導による国営農場という狭い範囲で「大農場」が「家庭農場」を組織して生産から、加工、販売までの一貫システムを行うという形により展開されてきたが、そこには限界があり、「緑色食品」生産の全国的な展開が急がれている。92年から「緑色食品」生産は管理機構による強力な推進、一連の施策の実施、地域行政主導下の各地域での積極的な取り組みなどによって全国的な範囲で展開されている。94年までに、「緑色食品」生産は上下に変動して成長してきたが、95年から「緑色食品」の産品数、生産量、農地面積は急速に拡大している。しかしながら、その全体的な展開状況を見ると、「緑色食品」の産品構造、地域分布の不均衡、生産規模の小ささなどの問題がある。それらの大きな要因としては、地域行政主導による生産取り組み意欲と方法にかかわる課題があげられる。

 さらに、以上各章の課題への理解を深めながら、「緑色食品」生産の実態について、唐海県におけるA級の緑色食品米生産の事例を取り上げ、地域行政主導によるA級の緑色食品米生産に取り組む生産者の営農、加工、販売の実態を分析した。その結果、A級の緑色食品米生産の仕組みを明確にするとともに、A級の緑色食品米への取り組みが地域経済の振興や持続的農業の発展などを促進するというポジティブ的な意義と生産資材の欠乏、産品販売市場の開拓、地域行政、農家、加工・販売会杜の間の相互関係の協調、認証基準の順守など諸問題点を明らかにした。

 最後に、「緑色食品」生産をさらに展開していくための基本課題として次の諸点を指摘した。①「緑色食品」の認証システムの改善、②認証システムに合わせた高効率的な生産・販売体制の構築、③各部門の協調を図ることができるような総合的な生産管理機構の設置、④「緑色食品」生産の支援体制づくりの確立、などである。