氏   名
Chen,qin ming(チェン チューミン)
陳  秋 明
本籍(国籍)
中 国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第145号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物生産科学専攻
学位論文題目
中国農村における合作経済組織の実態分析
一東北部S市を事例として一

(Analysis of the Economic Organization of Area Co-ops in Chinese Farming
-A Case Study of "S" City in Northeast China-)

論文の内容の要旨

  1979年からの中国の農村改革につれて、脱集団化の新しい生産制度が実施された。しかし、元の集団化生産から農家生産請負制を基本とする経営構造への転換の陰には農家の個人利益と国家利益の間の矛盾が隠されている。小規模農家が如何にして食糧生産に従事し、しかも農業への生産要素の投入を促すためには、土地所有が依然として国有、もしくは集団所有である中国農村において、農家と市場の間の仲介組織をつくることが一つの有効な方策であると言える。本論文では中国農村改革後、農村における合作経済組織誕生の背景と要因を考察したうえで農村における各合作経済組織の性格を明らかにする。次いで農村合作経済組織の展開実態と、組織間の関連性及ぴ取り巻く影響要因を分析する。さらに、一つの地域に絞って農家の経営構造から再組織化の要求所在を明らかにするとともに、農村における各合作経済組織が農家生産にどのような役割を果たしているのかを解明する。論文の主な内容は以下のようにまとめられる。

 第1に、地区合作経済組織を設立するのは経営規模の零細化、水利施設・土地改良などの建設の停滞といった個人農生産体制の限界、農村事情・食糧生産の悪化があるが、農業生産・農家をコントロールすることがその目的でもあった。集団資金の管理強化と有効運用は農村合作基金会を設置する主旨であるが、農村における末端の行政組織にとって農村合作基金会の設置は別の意味を持つと本論文は指摘した。農民専業協会誕生の要因は計画経済から市場経済への転換中において、農村における経済組織が未整備であり、特に農家自らの社会的な地位を高めるために農民専業協会が生まれた。

 第2に、地区合作経済組織は経済的な目標を追求しようとする経済的組織と、社会的な目標を実現しようとする行政機構という二重性格を持っている。農村合作基金会はその管理・運営が民主的に行われている一方、行政に極めて強い従属的性格を持つことを明らかにした。農民専業協会の場合、協同組合のような性格を持っていると同時に、独自の特徴がある。

 第3に、①組織体系が存在していないこと、②サービスは機械耕作・灌漑排水・病虫書の防除に集中していること、③国家財政上の支援をほとんど受けていないこと、④経済力の弱いものは運営資金が農家の上納金に頼らざるを得ないこと、⑤全般的に地区合作経済組織の運営が停滞、ひいては不振の状態に陥っていることを地区合作経済組織の現状として指摘した。農村合作基金会の運営上の問題点としては、経営目標の利潤化、返済資金の一層の増加、不良債権の増加などを指摘した。

 第4に、①郷(鎮)における財政構造の特徴、②郷(村)営企業の性格、③行政側との癒着、そして④農村信用合作杜との関係の四つの面から農村における合作経済組織の展開に関わる要因を分析した。

 第5に、東北部S市と河北省玉田県の事例を取り上げた。S市の事例を分析すると、①行政任務を中心にして経済的機能が従属的地位に置かれていること、②村営企業の発展が遅れて運営資金を農家に頼らざるを得ないこと、③農家の二一ズに応えられないことが問題点であることを指摘した。「専業協会」の問題点は、法律上の問題点や行政部門からの規制によって事業展開の難しさ、会員教育の問題点などを指摘した。玉田県の地区合作経済組織の場合、郷鎮レベルの経済連合杜が中心的な役割を果たしていたが、未だに「政仕合一」の段階にある。

 如何にして分散経営となった生産体制の欠陥を補完し、または農業・農村の無秩序化を防ぐのかが地区合作経済組織に課せられた役割となった。しかしながら、ほとんどの地区合作経済組織は農村末端における行政機構の姿を見せ、行政指令の遂行を中心に機能しており、農家の生産に関する要望を満たしていない。農村合作基金会は協同組合的な金融組織ではなく、農村における末端行政機構である郷(鎮)人民政府の「金融機関」となっている。

 一方、農家自らの組織化した農民専業協会は未だに経済実力が弱く、行政部門からの規制によって事業の展開が難しい状態にある。いわば、強い行政力を持つ地区合作経済組織でさえ解決できない諸問題点は農家自らの組織にとってなおさら困難なことであろう。それ故、地区合作経済組織を中心とし、農家合作組織を補完的なものとする、もしくは農家合作組織を土台とする組織再編の構想には多くの疑問がある。