氏   名
NIshino,naoko
西 野 直 子
本籍(国籍)
宮崎県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第141号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物生産科学専攻
学位論文題目
スナネズミの人工授精に関する研究
(Study of Artificial Insemination in the Mongolian gerbil, Meriones unguiculatus)

論文の内容の要旨

 スナネズミは、わが国で実験動物化された特筆すべき動物であるが、その繁殖力の弱さのため、他の実験動物であるマウス、ラットやハムスターなどと比較して、普及率は低い。そこで、本論文では、スナネズミの効率的な繁殖を行なう方法の一つであると考えられる人工授精技術を確立するために、基礎的な繁殖生理である発情周期、外因性性腺刺激ホルモンの影響、過排卵処理について調査を行ない、さらに、これらの基礎的データを基に、精子希釈液の選定、機械的に偽妊娠を誘起するための最適条件の確定、精子懸濁液注入器具および注入部位を決定するために子宮の構造を調査した後、人工授精を行なった。雌スナネズミの膣スメアは、ラットと同様の細胞変化を示し、それを基に発情ステージを判定することは可能であった。このことから、スナネズミの発情周期は、67.9%の雌において4-6日周期であることが判った。しかしながら、不安定な発情周期を示した動物(26.4%)も観察され、また、偽妊娠が誘起された動物は、5.7%(3/53匹)であり、スナネズミの偽妊娠は、17-20日間継続することが判った。これら正常な発情周期を示した成熟未経産処女雌の各発情ステージに外因性性腺刺激ホルモンを投与した場合の、発情ステージの変化および交尾行動について調査した。その結果、PMSG投与後、翌朝の膣スメアーは、全ての動物において発情休止期を示していた。しかしながら、hCG投与日の発情ステージの変化は2種類に大別することができた。つまり、発情前期および発情期にPMSGを投与した場合、その48時間後には、膣スメアは発情前期から発情期への移行期を示していた。一方、発情後期および発情休止期にPMSGを投与した場合、48時間後の膣スメアは発情前期を示していた。また、交尾行動について調査した結果、発情前期および発情期の雌においては、同居後すぐに交尾を開始し、23:00には交尾は終了したものと考えられる。一方、発情後期および発情休止期の雌においては、23:00以降に交尾を行なったのだろうと思われる。さらに外因性性腺刺激ホルモンの影響について調査するために、日齢の異なる雌における過排卵処理後の排卵数を調査した。その結果、野生色およびアルビノスナネズミにおいて若齢(40日齢)の排卵数が最も多く(それぞれ、43.17±9.89、34.92±4.78)、日齢が進むにつれ排卵数は減少していった。しかしながら性成熟後(110日)に再び排卵数の増加が見られた。これらの結果から、スナネズミの人工授精を行なう場合、4-6日の発情周期を示す110日齢の雌を用いることとした。精巣上体尾部から採取した精子は、非常に粘性が高く、そのままでは人工授精に供することが出来ない。そこで、精子希釈液を選定するために、ハムスターテストおよび透明帯除去スナネズミ卵子における精子の侵入率、雌雄前核形成を確認した。その結果、ハムスターテストにおいては侵入精子を確認することは出来なかったが、スナネズミ卵子を用いた実験において、TYHで精子を希釈した場合、最も高い侵入率(62.0%)が得られた。また、スナネズミの膣および外子宮口に機械的に刺激を与え偽妊娠を誘起させた結果、最適な条件は開始時刻が17:00であり、偽妊娠誘起率は83.3%だった。また、精子懸濁液注入器具および注入部位を決定するために子宮構造を調査した結果、スナネズミの中隔は非常に長いことが判った。そのため精子懸濁液は各子宮角へ注入することに決定し、また注入器具は各子宮角へ挿入しやすい弾力性があり、かつ細いマイクロチップを用いることにした。以上の実験結果を基に人工授精を行なった結果、着床が確認できた動物は、バイブレーターのみで偽妊娠を誘起させた雌であり、その割合は20%であり、分娩まで確認することができた雌の割合は60%だった。以上の結果から、本法を用いてスナネズミの人工授精を行なうことが可能であることが示唆された。