氏   名
Kano,masahiko
加 納 昌 彦
本籍(国籍)
新潟県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第140号
学位授与年月日
平成12年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物生産科学専攻
学位論文題目
水稲ホ-ルクロップにおける施肥条件とサイレ-ジの品質ならびに栄養収量との関連に関する研究
(Studies on Fertilizing Condition Related to Fermented Quality of Silage and Nutritional Yield in Rice Plant)

論文の内容の要旨

 本論文は,家畜ふん尿処理と肥培管理の省力化を目指した水稲の栽培法を確立し,ホ-ルクロップの飼料化およびサイレ-ジの発酵品質の改善を図ることを目的とした.さらに,水稲のサイレ-ジ発酵の材料草としての特性を検討した.得られた成果の要旨は以下の通りである.

 1.家畜ふん尿の施用量と施用法の違いが窒素の利用率,無機物含有率,サイレ-ジの発酵品質ならびに栄養収量に及ぼす影響

 水田に窒素量が慣行量(8kg/10a)の1.5倍と3倍量になるように乳牛のふん尿(スラリ-)を,基肥のみと基肥と追肥に分けて施用して水稲を栽培した.水稲の窒素の利用率は8.8%から30.9%の範囲であり,追肥をして栽培すると高い利用率を示した.サイレ-ジの発酵品質は,登熟の進展にともない改善される傾向にあったが施用量と施用法の間に大きな差はなかった.TDN収量は家畜ふん尿を基肥と追肥に分けて施用すると多くなった.

 2.緩効性肥料の施肥が窒素の利用率,無機物含有率,サイレ-ジの発酵品質ならびに栄養収量に及ぼす影響

 窒素の利用率は,基肥に速効性の化成肥料を追肥に緩効性の化成肥料を施用して慣行量の窒素量を施用すると78.8%,基肥に緩効性の化成肥料の慣行量を全量施用すると53.8%となったが,慣行量の3倍量を基肥のみで施用すると36.8%と大幅に下回った.サイレ-ジの発酵品質は,施用量を多くするほど,また,緩効性肥料を施用すると低下した。TDN収量は,施肥の間にほとんど違いがなかった.慣行量の緩効性肥料を全量基肥で施用して栽培すると,追肥のある施肥栽培に比べ,肥培管理の省力化を目指した飼料用水稲の栽培法としてみた場合,非常に有効な栽培方法であることを示した.

 3.緩効性肥料と堆肥の施用が窒素の利用率,無機物含有率,サイレ-ジの発酵品質ならびに栄養収量に及ぼす影響

 慣行量の窒素施用量とその2倍量を緩効性肥料を用いて全量基肥で施用して水稲を栽培すると,窒素の利用率は堆肥の施用の有無に関わらず2倍量施肥のとき高くなり,出穂期以降40%から50%の高い利用率を維持した.サイレ-ジの発酵品質は,施用量が多くなるほど低下した.TDN収量は2倍量の緩効性肥料を施用し,堆肥を施用したとき最も多くなった.緩効性肥料で慣行量の2倍の窒素を全量基肥で施用して水稲を栽培することは可能であるが,サイレ-ジの発酵品質は低下するため,発酵品質の改善についての検討が必要であると思われた.なお,1,2および3の栽培試験の無機物成分のうち,K/(Ca+Mg)当量比はいずれの試験でも乳熟期以降,危険値の2.2を下回った.

 4.グルコ-スおよびアクレモニウムセルラ-ゼの添加によるサイレ-ジの発酵品質の改善効果

 グルコ-スまたはアクレモニウムセルラ-ゼを添加してサイレ-ジに調製すると,いずれの添加物とも添加濃度が高くなるにともなって乳酸含量,フリ-ク評点およびVスコア-が増加し,酢酸と酪酸含量およびVBN/T-Nが減少し,サイレ-ジの発酵品質を改善した。また,堆肥を施用して栽培した水稲にグルコ-スを添加したとき,改善効果が大きく現れた.しかし,品質の改善効果は他の飼料作物サイレ-ジより弱いことを示した.

 5.水稲とトウモロコシの乳酸菌数の生育期にともなう推移

 水稲ホ-ルクロップサイレ-ジの乳酸含量がトウモロコシより少ない原因の一つに,乳熟期以降水稲はトウモロコシより,乳酸菌数が約100cfu/g少ないことがあげられることを示した.

 以上の本論文の結果から,家畜ふん尿と緩効性肥料を利用した各種施肥条件下で水稲を栽培したときの窒素の利用,無機物のバランス,サイレ-ジの発酵品質と栄養収量との関係を明らかにした.また,水稲ホ-ルクロップをサイレ-ジに調製の際,乳酸発酵を促進させることは困難であることを示した.日本海沿岸の水稲単作地帯において,家畜ふん尿処理と肥培管理の省力化を目指した水稲の栽培とその飼料化を図るために新たな知見を提供した成果は評価され,博士(農学)の学位に値すると認定した.