氏   名
Engo,tsuyoshi
遠 藤   威
本籍(国籍)
静岡県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第134号
学位授与年月日
平成11年9月30日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物環境科学専攻
学位論文題目
A Study of a Probiotic on Poultry: Effects on Productivity, Lipid Metabolism, Caecal Flora and Metabolites, and Raising Environment
(家禽類に対する生菌製剤の作用に関する研究-特に生産性、脂質代謝及び飼育環境におよぼす影響-)

論文の内容の要旨

 プロバイオティック(生菌製剤)は腸内の常在菌叢を改善することにより、動物やヒトに有効性を示す生きた微生物の単一あるいは複合培養物と定義されている。また、その作用として下痢発症の防止、毒素の中和、免疫賦活、血清コレステロールの低下あるいは大腸癌リスクの低下などが知られている。畜産の現場では疾病制御や成長促進剤としてさまざまな抗生物質が用いられているが、生産物とくに肉類や卵などへの抗生物質残留汚染が問題視されている。さらにそれらは有用微生物さえも死滅させる恐れがあり、正常細菌叢の乱れや細菌数の減少、薬剤耐性菌株や突然変異の病原菌を出現させ、ヒトに対しても感染症を生じさせる。これらに反して生菌製剤は疾病予防にも用いられ、抗生物質を超えたいくつかの利点を有している。畜産領域では有用生菌製剤を積極的に利用する試みがなされているが、ヒトへの応用に比べると比較的新しい。

 本研究は畜産領域において生産性及び生産物の質の向上と生菌製剤の関係を解明する研究の一環として、土壌から分離された14種の微生物(Bacillus、Lactobacillus、Streptococcus、Clostridium、Saccharomyces及びCandida)から構成された生菌製剤が家禽の成長、生産物、脂質代謝、腸内細菌叢と代謝産物及び飼育環境に与える影響を明らかにする事を目的とした。

 まず、肉用鶏(ブロイラー)に生菌製剤を飼料に対し0.3%の割合で連続給与し、成長、肉質、脂質代謝、盲腸内フローラと代謝産物及び飼育環境にどのような影響をおよぼすかについて調査を行った。生菌製剤の給与は成長促進に対し効果を示した。生菌製剤給与鶏のムネ肉及びモモ肉では脂肪含量が増加し、逆に水分含量が低下する傾向がみられた。また、生菌製剤の給与はモモ肉や肝臓のコレステロールレベルを低下させ、不飽和脂肪酸の割合を高める傾向を示した。生菌製剤の給与は盲腸内の微生物叢や代謝産物にも影響をおよぼし、盲腸内のE.coliやSalmonellaといったEnterobacteriaceae、アンモニア含量及びpHを低下させ、逆に短鎖脂肪酸含量の増加をもたらした。また、生菌製剤の給与は鶏舎内のアンモニアや硫黄化合物系の悪臭成分を低下させた。

 次に、ホワイトレグホーン種の産卵鶏に生菌製剤を飼料に対し3%の割合で連続給与し、成長、生産物、脂質代謝及び盲腸内フローラと代謝産物にどのような影響をおよぼすかについて調査を行った。生菌製剤の給与は産卵開始日までの初期生育において若干の成長促進効果を示したが産卵期の体重の変化には影響をおよぼさなかった。さらに生菌製剤給与群では肝臓脂質、血漿コレステロール、中性脂肪、リン脂質及びカルシウム濃度の低下がみられた。生菌製剤の給与は盲腸内フローラ及び代謝産物にも影響をおよぼし、Enterobacteriaceae、アンモニア含量及びpHを低下させ、Yeast、Bacillus、Streptococcus、Bifidobacterium及びLactobacillusの増加をもたらした。生菌製剤の給与は産卵開始日には影響をおよぼさなかったが、400日令以降の産卵率の低下を抑制した。生菌製剤給与群から得られた卵黄の水分含量は対照群から得られたものより低かった。また、生菌製剤の給与は卵黄の脂肪酸組成に若干の影響をおよぼした。生菌製剤の給与はハウユニットや卵黄係数といった割卵検査結果、あるいは保存性試験結果に対しては大きな影響は示さなかった。しかし、一般的に利用価値が低く廃棄処分される肉に対し、生菌製剤の給与はコレステロール含量の低下といった新たな付加価値を寄与する事が示唆された。

 次に、1%の割合でコレステロールを添加した飼料を与えたホワイトレグホーン種の若齢雄鶏に生菌製剤を飼料に対し3%の割合で連続給与し、成長、脂質代謝及び盲腸内フローラと代謝産物にどのような影響をおよぼすかについて調査を行った。生菌製剤給与群の飼料要求率は低下傾向を示した。肝臓の脂質及びコレステロール含量は生菌製剤給与区で減少傾向がみられた。血漿総コレステロール及び中性脂肪濃度は生菌製剤の給与で低下し、タンパク質、リン脂質及びHDL-コレステロール濃度には差異がみられなかった。生菌製剤の給与は盲腸内微生物叢及び代謝産物に影響をおよぼし、Enterobacteriaceaeやアンモニア含量及びpHを低下させ、Yeast、Bacillus、Streptococcus、Bifidobacterium及びLactobacillusの増加をもたらし、さらに盲腸内の短鎖脂肪酸濃度を調整した。

 これらのことから生菌製剤の給与は家禽類において盲腸内フローラや飼育環境を改善し、生産性、脂質代謝あるいは生産物の質に対し効果を示すことが示唆された。