|
おおいずみ ごう 大泉 剛 |
|
岩手県 |
|
博士(工学) |
|
甲 第 31 号 |
|
平成 12年 3月 23日 |
|
学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
|
工学研究科 生産開発工学専攻 | ||
|
北上川流域圏における早池峰エコミュージアムの展開手法に関する基礎研究 | ||
|
|||
本論文の背景および目的 1950年代に始まる高度経済成長期,それに伴う東京,大阪など大都市圏における労働力の極端な 不足そして都市と農山村との所得格差の拡大によって,農山村を中心に地方部の「過疎化」が進行した。 このような問題を抱えている地域が,かつてのまちの勢いや活気を取り戻そうとする試みを地域振興と 呼んでいる。しかし,近年の環境保護意識の高まりから,大きく自然を改変するような事業は,たとえ それが地域振興のためであっても,地域の内外から厳しい目が集まる。そのため,環境保全と地域振興の 両立を目指した策が各方面から求められている。 そのような中,地域環境の保全をベースとする地域活性化策としてエコミュージアムが注目を集めて いる。エコミュージアムとは地域社会の発展を目的とする地域住民参加による地域遺産の保全活動であり, 博物館として組織化されたものを指す。 本論文は,北上川流域圏を対象領域とするエコミュージアム,北上川銀河博物館を提案するもので あり,この一角を成す早池峰エコミュージアムの展開に際しての有用な情報を得ることを目的とする基礎 研究である。 わが国におけるエコミュージアム研究は事例紹介およびそれに類するものが多く,エコミュージアム の設立を目的とした基礎研究は極めて少なく,本論文の結果は今後のわが国のエコミュージアム普及の上で 貴重な資料となるものと思われる。 本論文の構成および結論 本論文は,6つの章から構成されている。 第1章「序論」では,研究の背景,目的,意義,枠組み,構成など本論文の概要について記述した。 また,北上川流域圏全域 を対象領域とするエコミュージアム構想,北上川銀河博物館構想および大迫町を 対象領域とする早池峰エコミュージアム構想について記述した。 第2章「わが国におけるエコミュージアムの現況と地域社会の発展に関する効果の計測 について」では, エコミュージアムの地域社会発展効果の構造に着目し,エコミュージアムと同様に地域活性化策として導入が 進む道の駅を比較対象としながら,エコミュージアムの地域社会発展に関する効果に迫った。また,現況調査 からエコミュージアムをいくつかの群に分類し,エコミュージアムの形態と地域社会発展効果の関連について 考察を行った。 その結果,エコミュージアムの主たる地域社会発展効果は「地域環境の保全」,「地域間交流」および 「人材の育成」であること,道の駅においては「産業・経済の発展」,「地域間交流」および「地域環境の保全」 であることを明らかにした。また,エコミュージアムの形態の違いによる地域社会発展効果の比較からは, 住民参加の程度としては「一部の有志のみ参加」,地域遺産の保存方法としては「一部の地域遺産について移転 ・移築・復元の容認」,対象領域の設定としては「対象領域が複数の市区町村」であるエコミュージアムの地域 社会発展効果が大きいことを明らかにした。 第3章「早池峰エコミュージアムのテリトリーの現況について」では,大迫町,すなわち早池峰エコミュー ジアムのテリトリーの現況と整備方針を明らかにするため,評価主体として多元的評価主体,つまりダム周辺地区 住民である定住者,観光・レクリエーション目的で訪れる来訪者・転出者の3評価主体を設定し,これらに対して 意識調査を行った。 定住者の調査からは,早池峰ダム建設に伴い評価が上昇したのは道路の整備状態のみで あること,公共交通に対する不満や改善要望が高いこと,およびダム周辺地区の地域振興に関心が高いことを 明らかにした。来訪者の調査からは,早池峰ダム周辺施設としては自然環境体験型の施設の支持が高く,また, 大迫町各ゾーンの整備方針として自然環境保全の方針を多く支持していることを明らかにした。移転者の調査 からは,移転地の生活環境に対して概ね満足の評価がされていること,また,地域遺産や原風景の保存や記録に 関心が高いことを明らかにした。 第4章「早池峰エコミュージアム計画案の評価について」では,大迫町において実施した地域遺産調査の 結果をもとに早池峰エコミュージアム案として「経済発展に配慮したエコミュージアム」案,「住民の参画に 配慮したエコミュージアム」案,「地域遺産の保存に配慮したエコミュージアム」案,「研究・教育に配慮した エコミュージアム」案の4つを提案し,これらを階層的意志決定法(AHP法)を用いて評価を行った。 まず,大迫町の地域遺産調査からは,各ゾーンにおける地域遺産の特性を明らかにした。次いで,AHPを 用いた早池峰エコミュージアム計画案の評価からは,「地域遺産の保存 に配慮したエコミュージアム」案の評価が 最も高くなったが,4つの案に大きな差違がないことが示された。また,計画案の重要度の変化に最も影響を 及ぼす評価基準は「地域環境の保全」であることを明らかにした。 第5章「早池峰エコミュージアムの展開手法のあり方」では,これまでの研究成果を踏まえて,早池峰 エコミュージアムの展開手法のあり方として,「北上川銀河博物館の骨格構造としての北上川の設定」, 「エコミュージアムの特性を生かした地域社会発展への貢献」,「北上川銀河博物館構想における地域住民 参画のあり方」,「北上川銀河博物館のコアミュージアムの機能」,「自然環境および原風景保全を基調と した早池峰エコミュージアムの基本方針の確立」,「早池峰エコミュージアムの機能」,「早池峰 エコミュージアムのディスカバリートレイルの機能」,「早池峰エコミュージアム各ゾーンにおけるサテライト の特性と位置づけ」,「早池峰エコミュージアムにおける地域遺産の扱い」,「地球環境保全の視点の導入」, 「わが国エコミュージアムの認定・登録制度の確立」について提言を行った。 第6章「結論」では本論文により得られた主な結果について示した。 |