氏   名
Jiang Dong
江    東
本籍(国籍)
中 国
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
甲 第29号
学位授与年月日
平成12年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生産開発工学専攻
学位論文題目
高流動コンクリート用粉体としての廃棄物の有効利用に関する研究

論文の内容の要旨

 コンクリート構造物の信頼性を高めるために、自己充填性などの特質を有する高流動コンクリートが開発され、実用に供されている。高流動コンクリートの種類のうち、粉体系では、多くの粉体を使用して、材料分離抵抗性を付与する。この粉体として、本研究では、廃棄物の有効利用に着目した。環境保全や省資源の観点から、廃棄物の有効利用を図り、併せて、経済的な高流動コンクリートを得ようとするのが、本研究の目的である。

 本論文は、7章で構成されている。

 第1章は序論であり、本研究の背景と本研究の目的について述べた。

 第2章では、既往の研究をまとめた。とくに、粉体の特性とコンクリートの流動性との関係および廃棄物を用いた高流動コンクリートに関する既往の研究に着目した。これに基づき、本研究の課題を、より具体的に提起した。

 第3章では、粉体の特性について述べた。本実験で対象としたのは、セメントや高炉スラグ微粉末などの市販品が8種類、砕石粉や鋳物ダストなどの廃棄物が12種類で、総計20種類の粉体である。化学成分の分析結果によれば、廃棄物の場合、原材料の成分や生成の方法などによって、それぞれの化学成分は大きく異なっており、成分的に、高流動コンクリート用粉体として、適切でないと判断される例もみられた。粉体の粒径、粒度分布および粒子形状も、粉体の生成方法などによって、著しく違っている。粉体の表面積は、空気透過法および窒素吸着法で測定した。前者は、粉体の外部表面積を、後者は、外部表面積と内部表面積の総和を示す。たとえば、フライアッシュやシリカフュームなどは、外部表面積と内部表面積との差が小さく、高温による溶融状態を経ているため、粉体の内部空隙が少ないと推察される。これに対し、′生コン工揚から排出される脱水ケーキなど、廃棄物の中には、内部表面積が大きく、多孔質となっているものが多い。粉体の特性としては、高性能減水剤の作用を損なわない性質も望まれる。粉体と高性能減水剤とを溶かした水溶液の表面張力の変化を測定し、両者の相互作用を検討したところ、高性能減水剤を吸収したり、化学的に吸着したりする粉体がみられた。

 第4章では、粉体の特性とペーストの流動性との関連について述べている。ペーストの流動性には、粉体の粒形、粒度分布、外部表面積、内部表面積および親水性・疎水性の別など、多くの要因が関連する。たとえば、粒子形状が角張っている場合、粒度分布が広い湯合、外部表面積および内部表面積が大きい場合、および粉体が親水性を示す場合には、所定の流動性を得るために、大きな水量を要する。コンクリートにとって、単位水量の増大は、多くの弊害を招く。このような観点から、たとえば、内部表面積が大きく、多孔質の脱水ケーキなどは、高流動コンクリートの粉体として、不適切であると判断される。高性能減水剤の作用を阻害する粉体も見られるが、高性能減水剤には、粉体による悪影響を受けにくいものもあり、そのような種類の高性能減水剤の使用が望ましい。対象とした廃棄物の中では、粉体特性や流動性のほかに、発生量および経済性などの観点から、鋳物ダストの適用性が高いと判断され、ガラス研磨汚泥も、一部に不適切な性質を有するが、適用性を検討してみる価値があると判断された。

 第5章では、高流動コンクリート用粉体として、鋳物ダストの適用性について検討した。コンクリートの配合要因を適切に設定すれば、鋳物ダストを用いたコンクリートに、優れた流動性と材料分離抵抗性を与えることができ、経時的な変化も抑制できる。また、硬化後の圧縮強度、乾燥収縮および耐凍害性についても、良好な結果が得られており、コンクリートから溶出する有害物質も、僅かで問題ないと判明した。有用性については、製品工場の実機を用いた試験で確認しており、市販に耐えられると評価できる製品を得た。

 第6章では、ガラス研磨汚泥の適用性について検討した。ガラス研磨汚泥には、研磨助剤としての切削油が含まれるため、空気連行性が強く、夥しい気泡を発生させて、水を拘束し、流動性を阻害する。これを抑制するため、活性炭を添加して切削油を吸着させる方法を考案し、ペーストを対象とした実験で、有用性を確かめるとともに、活性炭に影響されない高性能減水剤も見出した。コンクリートの実験においても、活性炭の添加量をはじめとする配合条件を適切に設定することにより、流動性に優れ、碑化後の性能も良好な高流動コンクリートが得られており、さらに、実機試験で、有用性を確認した。

 第7章では、本研究で得られた成果を総括し、結論を導いた。