氏   名
Zhang Jin xi
張  金 喜
本籍(国籍)
中 国
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
甲 第28号
学位授与年月日
平成12年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生産開発工学専攻
学位論文題目
生コンスラッジの建設材料としての有効利用に関する研究
(Studies on Recycling Technologies of Concrete Sludge as Construction Materials)

論文の内容の要旨

 生コンクリート工場では、ミキサやベルトコンベア等の製造設備や生コンクリート運搬車等の洗浄によって、スラッジを含んだ水が発生する。また、現場に運んだ生コンクリートが、荷卸しされずに、戻されてしまう場合もあり、戻りコンから骨材を回収する際にも、スラッジ水が発生する。スラッジ水を天日乾燥したものを天日乾燥スラッジ、機械脱水したものをスラッジケーキと呼ぶ。スラッジは大量に発生し、廃棄費用も高いため、多くの工場が苦慮している状態にある。

 本研究では、生コンスラッジを建設材料として適用する方法について検討した。スラッジの利用方法としては、道路の場合、アスファルト舗装の表層・基層に用いられるアスファルト混合物の細粒材料、戻りコンとの併用による路盤材料および路床の安定材を想定した。さらに、建設材料として範囲を広げ、生コンクリートの混和材、アスコン廃材の安定材および流動化処理土を製造する材料としての利用も考えた。

 本論文は、9章で構成されている。

 第1章は序論であり、本研究の背景、既往の研究および本研究の目的などについて述べた。

 第2章では、スラッジの基本的性質について述べている。対象としたのは、生コン工場から採取した天日乾燥スラッジおよびスラッジケーキであり、このほか、実験室で人為的に作成したスラッジも用いた。生コンスラッジの含水率はきわめて高く、湿潤密度および乾燥密度は、ともに、小さな値を示し、水分を除いたスラッジそのものの密度も、小さい値となる。スラッジの粒度は非常に細かく、とくに天日乾燥スラッジで、その傾向が強い。スラッジ粉末のSEM写真によれば、スラッジは、小さい粒子で構成され、粒子の表面は粗く、多孔質であると観察された。ブレーン値および窒素吸着表面積の測定結果も、スラッジは細かく、多孔質であることを示しており、そのため含水率が高く、密度が小さいと考えられる。スラッジに含まれる元素は、主にカルシウムおよびケイ素であり、鉱物成分としては、セメント水和物(カルシウムシリケ-ト水和物など)、水酸化カルシウム、未水和セメントおよび細砂が主である。人為的に作成したスラッジを用いて、鉱物組成を調べた結果によれば、スラッジの鉱物組成は、発生してからの時間経過によって異なり、できるだけ若材齢で用いれば、未水和セメントが残留し、活性を期待できることが判明した。

 第3章では、スラッジを生コンクリートの混和材として利用する方法について検討した。コンクリートの配合を変えない場合、天日乾燥スラッジを混入すると、全体の水量が増大し、結果的に、コンクリートの水セメント比が大きくなって、強度は低下した。一方、コンクリートの配合を適当に設計すると、スラッジを混入しても、強度の低下は見られず、むしろ増加の傾向を示した。スラッジの混入率が適当であれば、十分な流動性も確保できると言える。

 第4章では、スラッジと戻りコンとの併用による路盤材の適用性を検討した。両者を混合して硬化させ、その後、破砕した混合破砕物は、路盤材としての十分な支持力を示すとともに、耐水性および耐凍上性などにも優れる。混合破砕物を用いて試験路盤を作成し、その性質を調べたところ、普通の路盤よりも、たわみ量が小さく、支持力係数が高いとの結果を得た。屋内実験および試験路盤で得られた良好な結果をもとに、この方法は、岩手県内のある生コン工場で、実用化されている。実用化にあたっては、溶出試験を実施しており、スラッジに若干の有害成分が含まれているものの、きわめて微量であり、環境に対する悪影響はないとの結果を得ている。

 第5章では、乾燥させたスラッジ粉末を、アスファルト混合物用の細粒材料として用いる方法を検討した。スラッジおよび混合物の種類のいずれの組み合わせにおいても、スラッジの混入率が適切であれば、スラッジをアスファルト混合物用の材料として有効に利用できる。

 第6章では、アスコン廃材の安定材としての天日乾燥スラッジの適用性を検討した。スラッジは、安定材としての役割を果たし、アスコン廃材を下層路盤材として使えるとの見通しを得た。

 第7章では、軟弱路床土の安定材としての適用性を検討した。乾燥スラッジ粉末を混入すると、路床土の支持力が増大し、耐凍上性も大幅に改善されるなどの傾向が見られた。路床土からの有害物質の溶出も、ほとんどない。

 第8章では、流動化処理土の混和材としての適用性を検討した。天日乾燥スラッジを混入しても、本体となる土が、粘性土の場合、顕著な効果は認められなかったが、砂質土の場合には、分離抵抗性が向上し、適当な流動性も得られた。

 第9章は結論であり、スラッジの基本的な性質を整理するとともに、検討した6つの方法について、いずれも有用性が高く、速やかな適用が望まれると結んだ。