氏   名
がんべ つよし
雁 部   剛
本籍(国籍)
宮城県
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
甲 第27号
学位授与年月日
平成12年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生産開発工学専攻
学位論文題目
石油貯留層中の3次元水圧破砕き裂に対する積分方程式の誘導に関する研究

論文の内容の要旨

1. 緒言
 水圧破砕法は,坑井から破砕流体を圧入することにより人工的に石油貯留層内に大規模なき裂を作り,注入した砂等の支持材によってき裂を開口した状態に保つことによって,浸透率の低い貯留層からの石油やガスの生産性を高める技術である.水圧破砕法は,1950年代から用いられてきた坑井刺激法の一つで,今日ますます多くの石油/ガス井で実施されている.

 水圧破砕法に関連して最も重要な問題の一つは,破砕流体の圧入予定に対して生成される人工き裂の大きさと形を予め予想することである.従来,貯留層を挟んでいる不浸透性のバリア層内に人工き裂が進展していかないと考えられていたので,人工き裂の高さが貯留層の厚さに等しい2次元シミュレータが開発されてきた.

 しかし,フィールドにおける経験や破壊力学に基づく解析により,人工き裂が貯留層内に留まっていない場合も少なくないことがわかってきた.そのため,CliftonとAbou-Sayedは,坑井からの流体の圧入によるき裂の3次元的進展を模擬する3次元モデルとその数値解析法(水圧破砕3Dシミュレータ)を提案した.そこでは,岩層を均質等方弾性無限体と見なし,任意形状平面き裂の内圧と開口変位とを関係づける積分方程式を解く問題に帰している.

 貯留層は石油やガスを含む多孔質岩体からなっているので,KurashigeとCliftonは,貯留層を「流体を含む多孔質弾性無限体」としてモデル化し,水圧破砕き裂に対する積分方程式を導いた.さらに,彼らは,貯留層が不浸透性のバリア層に挟まれているので貯留層内の石油やガスの流れは水平方向に支配的であることを考慮して,垂直方向の浸透率をゼロとするモデルを提案した.前者の論文の積分方程式は上述のシミュレータに組み込まれ,多孔質岩体中の流体の流れがき裂形状やき裂開口に及ぼす影響が明らかにされた.後者のモデルに基づく積分方程式は,現在,シミュレータに組込み中である.

2. 本研究の目的
 石油貯留層の浸透率は貯留層岩そのものの浸透率と地殻応力の大きさに支配される.石油貯留層を構成している地層の長期間にわたる形成過程において生成された微視き裂が多数存在すると,3つの地殻主応力の違いにより,顕著に浸透率の方向による違いが発生する.そのため,貯留層の浸透性は強い異方性を示すことが多い.その程度は,通常,浸透率比が2~3倍,顕著な場合には100倍にも達することが報告されている.

 従って,水圧破砕シミュレータの一層の開発と“進化”のためには,この石油/ガス貯留層の浸透率の異方性を取込むことが必用不可欠である.そこで,本研究では,垂直異方性の浸透率を有する多孔質弾性体の基本解を誘導し,その基本解を用いて,シミュレータ用の積分方程式を誘導することを具体的な目的とする.

3. 解析法
 垂直異方性の浸透率を有する流体で飽和した多孔質弾性無限体(弾性的には等方性)中の瞬間的に働く集中力と瞬間的な流体源に対する基本解を求めた.解法は,ラプラス変換と3重フーリエ変換を用いた.フーリエ逆変換には,変数変換/座標変換・被積分関数の積分表示/積分順序の交換等を駆使した.

 さらに,垂直異方性の浸透率を有する流体で飽和した多孔質弾性無限体(弾性的には等方性)中の任意形状の平面き裂に対する積分方程式を誘導した.この誘導には,ラプラス空間における相反定理と転位ループ解/転位セグメント解を用い,バーガースベクトルとき裂開口との関係および重合わせの原理等を用いた.基本解および積分方程式の誘導には,数式処理ソフトMathematicaも利用した.

 具体的には,①垂直異方性の異方性主軸がき裂面内にある場合(一般にはき裂面は鉛直になるので,垂直異方性の等方面は水平面で地層面と一致する)と②垂直異方性の異方性主軸がき裂面に垂直な場合(微視き裂が発達していて,2つの水平地殻主応力が異なる場合)を取り扱った.

4. 討論
 得られた積分方程式は,最小地殻主応力・擾乱を受ける前の空げき流体圧・き裂内圧力の分布が与えられたとき,き裂開口変位と流体漏えい流束を未知関数とする連立積分方程式になっている.右辺の第1項は瞬間弾性応答を表し,第2項の時間に関する積分は多孔質内の流体拡散の影響を表している.浸透率の異方性の影響はこの第2項に含まれている.

 第1項の積分核は,き裂開口がその変位勾配で表されているため,き裂開口変位そのもので表されている積分方程式より1オーダー低い特異性を持っている.第2項の積分核には,特異性がないことを確認している.従って,有限要素法でこの積分方程式を解く場合,積分核の数値的評価(剛性マトリックスの評価)は比較的容易である.これは本論文で導いた積分方程式の優位な点である.

5. 結論
 垂直異方性の浸透率を有する流体で飽和した多孔質弾性体に対する基本解とその様な多孔質無限弾性体中の水圧破砕き裂に対する積分方程式を導いた.また,得られた積分方程式の特性/優位性について検討した.