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はちすか しゅんじ 蜂須賀 俊 次 |
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茨城県 |
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博士(工学) |
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甲 第25号 |
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平成12年3月23日 |
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学位規則第4条第1項該当 |
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物質工学専攻 | ||
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ニッケルめっきを用いたスチールコードの研究 | ||
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<背景> タイヤの補強材であるスチールコードは、ゴムとの接着が加硫工程ででき、工業的に優れた方法である。スチールコードの表面には、CuとZnからなる合金、ブラスがめっきされ、ブラス中のCuがZnにより希釈され、かつZnの優先酸化により、表面のCu濃度が低下している。適度な表面濃度となったCuとゴム中のS成分が加硫による加熱で、反応し、硫化物を生成して、接着層が形成され、接着物となる。しかし、湿度や熱による硫化物の過剰生成やZn分の酸化/水酸化の影響で、接着耐久性が低下する傾向があり、技術的な改善策が求められている。 <目的> これを改善するため、ブラスよりも安定な金属であり、かつスチールコード製造に必要な伸線加工もできる、ニッケルめっきを用いたスチールコードを開発することとした。しかし、安定であることは、接着に必要な反応が生じないことでもあり、反応層をどう生じさせるかが課題であった。板材を対象としたINT法を基礎として、伸線加工をへたニッケルめっきスチールコードと天然ゴムとの接着性について研究を行なった。 ニッケルめっきスチールコードは、ブラスと接着しうるスルフェンアミド系加硫促進剤を添加したゴムとは、トリアジンチオールを添加しても、Sとの反応性が乏しく接着しない。しかし、多S、多トリアジンチオール、多ナフテン酸コバルト添加配合に接着性向上の可能性があり、NiとSを反応させる指針となった。 <結果> ニッケルめっき表面にトリアジンチオールの浸漬処理を行い、処理濃度、処理時間、処理温度などの要因を検討した。0.4%TTN水溶液にて、80℃,15minの処理を行なうと、ニッケルめっき表面とトリアジンチオールが多く反応し、S/Ni比が3程度に上昇した。処理品は、スルフェンアミド系加硫促進剤を用いたゴムと接着しうることが確認できた。引抜き力、ゴム被覆率共に優れた接着特性が得られ、加硫促進剤の種類、濃度、硫黄濃度、有機コバルト塩の添加などの影響があり、それぞれ最適値が存在した。また、有機コバルト塩を添加しないものでは、耐水接着性の低下がほとんどなく、初期接着の改善が課題ではあるが、今後の指針となる方向が見出せた。 Sを含有したニッケル複合めっきは、ニッケル浴にチオ硫酸ナトリウムを添加することで可能となり、S含有率には、チオ硫酸ナトリウム濃度、浴温度、電流密度などの影響があり、制御が可能である。S含有ニッケルめっきは、電気めっきではアモルファス状であり、置換めっきでは結晶質であり、NiとNi3S2で構成されていた。加硫による加熱でアモルファス状の電気めっきは結晶質になり、NiとNi3S2が認められた。めっきに含まれるS分、Ni3S2の硫化物がCuxSと同様に、ゴムとの接着に寄与しており、接着には、S含有率の最適値が存在した。まためっき付着量が少ないほど、接着が良好であり、ゴムとめっきは良く接着するものの、めっきと鉄地との密着性の劣化から、この傾向が生じていた。この接着系では、長時間加硫や湿潤経過後には接着が向上していく特異な傾向も示した。 ブラスめっき上に、薄いニッケルめっきを付加して、伸線加工を行なうと、伸線加工中にメカニカルアロイングが生じている。付加するニッケルめっきが0.15μm以下では、ニッケル相としての残留がなく、合金化していく。伸線加工後の表面は、Cu/Zn/Niの3元系合金と同様な特性が発現しており、Znリッチの表面にニッケル分が僅かに存在している。ゴムとの接着性は、初期も良好であり、Ni量の多いものほど、湿潤接着の劣化が少なかった。ニッケルを合金化させると反応性は低下しており、これが湿潤接着性改善に寄与している。この伸線加工時のメカニカルアロイングの方法は、スチールコードの製造方法が、表面特性を与える方法となり、表面特性の制御方法としての有効性は高く、ニッケルをベースとした銅めっき付加も今後検討していける可能性がある。 <まとめ>これらの4種類の試みは、鉄地に近い方から、S含有めっき、ブラスとニッケルとのメカニカルアロイング、トリアジンチオールによる処理、そして、チウラムとチアゾール系ゴム配合と整理できる。塑性加工をうけた安定なニッケルめっき表面でも、これらの工夫により、安定な天然ゴムとの接着が可能であり、これらを組み合わせた方法についても、将来の発展が望める。 |