氏   名
Hirano,Mitsugu
平 野  貢
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
乙 第27号
学位授与年月日
平成11年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
水稲の登熟期における炭水化物代謝
(Carbohydrate metabolism at the grain-filling stage of rice)

論文の内容の要旨
 水稲においては,穂ばらみ期から登熟期にかけての物質生産が登熟歩合や収量に著しく影響し,葉身および茎(秤と葉鞘)における炭水化物代謝と密接な関係がある.水稲品種あきたこまちとひとめぼれを供試し,各種処理および栽培法の違いが葉身および茎における炭水化物代謝におよぼす影響について検討した。

 得られた成果の概要は以下の通りである.

 1.水稲あきたこまちを圃場で栽培し,出穂前に葉身摘除処理および出穂直後に穂の部分摘除処理を行い,出穂前に蓄積した炭水化物の転流や出穂後の光合成産物の転流・蓄積に及ぼす影響について検討した。水稲葉身では,デンプンの蓄積が極めて少なく炭水化物含有率が大きくなるほどショ糖の占める比率が大きくなった。茎においても基本的には同様の傾向がみられたが,デンプンの蓄積も著しかった。穂重が急激に増加する登熟初期には,葉身,茎とも炭水化物,とくにショ糖の含有率が低下した。穂重の増加が緩やかになる登熟中期から後期にかけては,穂への転流が停滞し光合成産物のソース器官での再蓄積が観察された.とくに,転流型のショ糖の蓄積が非常に大きかった。ショ糖りン酸合成酵素の登熟期止葉における活性は葉身の老化とほぼ平行して低下した。

 2.登熟期窒素追肥と出穂前葉身摘除が,登熟期における水稲の葉身および茎の炭水化物代謝に及ぼす影響について検討した。窒素追肥区では登熟初期に一時的に全乾物重および穂重の増加速度が低下したが,最終的には全乾物重で30%以上大きくなった。葉身のショ糖含有率は登熟中期以後対照区では低下したが,窒素追肥区では登熟期間を通じて大差なかった.茎のデンプン含有量は穂首節間および第Ⅱ節間では登熟中期以後は窒素追肥区では大きくなった。第Ⅲ節間以下の茎下部では対照区においては登熟初期から急激に低下したのに対して窒素追肥区ではむしろ増加した。デンプン含有量は茎下部において茎上部の数倍も大きかった。  止葉のみまたは止葉と第Ⅱ葉を残した葉身摘除の影響は,穂重で見る限り10%程度の低下であったが,下位節間の乾物重低下が著しかった。ショ糖含有率は各葉身および節間で低下し,穂首節間のショ糖含有率はとくに低かった。デンプン含有量は,葉身および穂首節間において小さく葉身摘除の影響は小さかったが,第Ⅱ,Ⅲ節間では葉身摘除によって著しく低下した.

 3.基肥無窒素-8葉期以降追肥の施肥体系と疎植の組合わせ栽培が慣行栽培に比べて低収である原因と改善の可能性について検討した。基肥無窒素区では葉面積や分げつなどの栄養生長が緩慢で最大葉面積指数も4程度と小さかった。登熟期における面積当たり穂数および籾数はかなり小さく登熟歩合は大きかったが,収量は対照区より5-10%低かった.穂揃期の株あたり有効茎数は,1次分げつでは対照区と基肥無窒素区とでは大差がなかったが,2次分げつでは後者で多く全有効茎数も多かった。有効茎の発生部位は対照区では下位節に,基肥無窒素区では上位節に偏る傾向があった。しかし,基肥無窒素区の2次分げつ穂は1穂重,穂長および1穂当たり生葉重が大きかった。穂ばらみ期および登熟期の個体群内部の相対光強度は基肥無窒素区で明らかに大きかった。

 4.基肥無窒素・8葉期以降追肥と疎植の組合せ栽培に易分解性有機物として米糠を施用し炭水化物代謝に及ぼす影響について検討した。収量は基肥無窒素区,米糠施用区とも対照区と変わりなかった。米糠施用区では幼穂形成期頃から葉身窒素含有率が大きくなり頴花数も増加したが,登熟歩合は低下した。米糠施用区では,穂ばらみ期および登熟期における葉身および茎のショ糖含有率が高く,登熟中期に最大となった。茎上部と茎下部のショ糖含有率は,茎上部では区間差が小さく含有率の上昇も急であったが,茎下部では区間差が大きく,含有率が最大となる時期が茎上部より早かった。茎のデンプンは含有率および含有量とも米糠施用区において明らかに大きかった。茎下部のデンプン含有量は茎上部のそれより大きく,また動きも早かった。

 5.水稲品種ひとめぼれを基肥無窒素と米糠施用で栽培した。登熟期の茎における炭水化物と細胞壁成分(ADF)を各節間ごとに測定し,また両者の関係について検討した。基肥無窒素区および米糠施用区の非構造性炭水化物(NSC)は穂首節間を除いて対照区より含有率が高かった。ADFの含有率は,NSC含有率とは対照的に基肥無窒素区および米糠施用区,また下位節間において低い傾向があった。珪酸が主な成分である灰分の含有率は,ADFとほぼ同じ傾向であった。乾物重および各茎成分の含有率および面積当たり含有量について試験区,登熟時期,各節間を込みにして相関係数を算出した。ADF含有率はNSCおよびデンプン含有率とは高い負の相関,灰分率とは高い正の相関を示した。しかし,ADF含有量はこれらの成分含有量と高い正の相関を示じ,とくに灰分とは著しく高かった。