氏   名
KIM YOUNG HO
金  榮  鎬
本籍(国籍)
大韓民国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
乙 第23号
学位授与年月日
平成10年10月20日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当
学位論文題目
Studies on Molecular Breeding of High lron Contentred Pepper (Capsicum annuum L.)
(分子育種法による高鉄含量トウガラシ作出に関する研究)

論文の内容の要旨

 植物体内で、鉄は機能分子(フェレドキシン)として、光化学系の電子伝達系の中で重要な役割を果たしている。さらに、植物体内で鉄を貯蔵するタンパク質(フェリチン)に存在し、動物によって摂取・利用される。これら2つの鉄の存在形態(フェレドキシンとフェリチン)は、異なる遺伝子によってコードされていると推定されている。したがって、フェレドキシンの含量・機能に影響を与えることなく、フェリチン含量を高めることが可能であると推察される。フェリチンは、450,000 の分子量を有する巨大なタンパク質であり、1 分子あたり最高4,500 の鉄原子を貯蔵することが可能である。本研究は、高発現プロモーターにフェリチン遺伝子を結合し、トウガラシに導入し、高鉄含量のトウガラシを育成することを目的とした。

 第1章では、異なる鉄含量の水耕液で育成させたトウガラシの生育段階別の鉄含量の変化を検討した。その結果、正常な緑葉では発芽後56日以降漸次増加した。また、フェリチンタンパク質の抗体を用いた Western blot 分析の結果、発芽後7 日間は漸次減少したが、茎・葉などの組織からは検出されなかった。なお、高鉄含量の水耕液で生育させた場合、鉄含量は増加したが、葉色の変化(黄色化、白色化)にともない減少した。第2章では、フェリチン関連遺伝子を単離した。この遺伝子は 1.076bpでありFp1 と命名した。この遺伝子の塩基配列から推定したアミノ酸配列を他の生物のフェリチン関連遺伝子から推定されているアミノ酸配列と比較した。その結果、ダイズ(Solc)とは84%、ヒトの肝臓(Hul-H) とは48%、ウマの脾臓(HoS-L) とは36%の相同性を示した。鉄を含有する水耕液で生育させたトウガラシの茎・葉から経時的にRNA を抽出してNorthern blot した結果、フェリチン RNAは根よりも葉でより多く発現し、最大発現は処理後12時間後であった。第3章ではFp1 遺伝子を 35Sプロモーターに結合し、Ti-プラスミドを用いてトウガラシの形質転換を行ない、形質転換体の遺伝子発現を解析した。4 個体の形質転換体(A6、A7、A8、A14) は他の転換体よりも 7~8 倍高い転写量を示した。

また、抗体を用いた Western blot 分析の結果、23.5kDa に強いシグナルが観察された。これらの結果は、4 個体の形質転換体でのフェリチン蓄積の可能性を示唆している。第4章では、4 個体の形質転換隊体の自殖後代のFp1 遺伝子発現および鉄の蓄積を検討した。その結果、導入された遺伝子のコピー数は転換体で異なっていた。一方鉄含量はA14 では非転換体よりやや高い程度であったが、A6、A7、A8の3 転換体では全器官(茎、葉、果実)で、全生育段階を通じて高い傾向を示した。

 以上の結果、トウガラシの鉄含量を増加させるために遺伝子工学的手法が有効であり、本研究で育成した高鉄含量の形質転換体は今後の高鉄含量の新品種育成の素材として利用できることが期待される。