氏   名
Su,Qun(スー チュン)
蘇   群
本籍(国籍)
中華人民共和国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第131号
学位授与年月日
平成11年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物生産科学専攻
学位論文題目
家族農業経営における農家女性の就業選択に関する研究
(A Study of Farm Women's Employment Selection)

論文の内容の要旨

  農業労働力の減少や国際的な締めつけにより、日本の家族農業経営は厳しい状況に直面し、それに対応するためには、農業生産の担い手の研究が大きな課題である。その際、農業生産や農家生活に男性以上に深く関与している女性の生活や就業行動に焦点をあてることが、必要不可欠である。

 近年、農家女性の就業構造や生活状況の変化は、社会の各方面から注目され、様々な研究が行われている。しかし、それらの研究のほとんどは、兼業化の進展を背景にしたものであり、女性をめぐる環境の変化や情報化の影響、グループ活動への参加による意識変化など、農家女性の就業選択や家庭内地位の変化に対する研究が手薄である。そこで、本論文では、従来注目されてこなかった兼業就業機会の乏しい専業農業地帯の農家女性に着目し、まず、兼業労働市場の影響が少ない地域で、農家女性はどのように就業選択をしているのかについて考察し、各就業選択に影響を及ぼす要因を解明する。次に、女性の就業及び生活の意思決定の現状を分析することにより、専業地帯の農家女性の自立化方向についても検討することを目的としている。

 以上の問題意識と研究目的に従い、最も専業従事率の高い十勝地域の農家女性を研究対象とし、次のような手順により分析を行った。第一に、都府県との比較分析を中心に、兼業地帯の農家女性と異なる専業地帯の農家女性の就業状況の特徴やおかれた環境の相違について考察した。第二に、農家女性の主体的な就業選択や意思決定を重視し、都府県の兼業地帯で検証された農家女性の就業選択モデルの適用性を検討し、専業地帯の特徴を考慮した上で、農家女性の就業選択肢を設定した。そのうえで、福井の自己効用最大化モデルの原理に基づき計測モデルを構築し、二者択一の単純ロジットモデルを援用して、十勝畑作農家のデータにより実証分析を行い、各要素間の関係とともに約16年間の年次の違いによる変化の実態を数量的に把握した。第三に、近年の農家女性の社会活動への参加や経営管理への参画といった主体的な意思決定や意識の変化に着目し、また、現時点の農家女性の就業と生活状況を把握する必要性から、アンケート調査と聞き取り調査を行い、調査データを整理することにより、農家女性の就業の実態を把握し、家族の状況や社会活動への参加状況との関係を考察した。第四に、そのデータに対して、数量化Ⅱ類とロジットモデルを適用し、従来の研究で考察していない女性の学歴や社会活動への参加、営農計画の把握などの要素をモデルに取り組み、専業地帯の農家女性の就業形態に影響する要因を分析した。第五に、アンケート調査により専業地帯の農家女性の生活と農業に関する意思決定の現状を把握し、数量化Ⅲ類と数量化Ⅱ類を用いて自立的農家女性の特性を解析したうえで、専業地帯の農家女性の自立化方向を分析した。

 以上の手順で分析された結果は、次のようにまとめられる。第一に、専業地帯の農家女性の就業選択に影響を及ぼす要因として、当該女性の年齢、学歴、嫁・姑の家庭内役割分担、夫の就業形態、乳幼児の存在が確認された。そのほかに、営農計画の把握が農家女性の農業従事を促進し、社会活動への参加が兼業従事を促進する関係にあることも確認した。第二に、専業地帯の農家女性の兼業従事は、季節パートの形態で畑作農家の女性に限定される場合が多いことを明らかにした。第三に、若年層の農家女性は主に家事を分担し、中年層の女性が季節パートに従事することが多く、専業地帯の農家女性は、各年齢層ごとに異なる就業形態を選択し、多様化が進んでいることを明らかにした。第四に、農家女性の自立化に影響する要因として、本人の就業形態、経営形態、夫の就業形態、本人の年齢、乳幼児の存在といった農家女性の属性が確認され、さらに、社会活動への参加程度も女性の自立化を促進する。専業地帯の農家女性は、社会活動や生活・営農に関する決定の積極的な参加により、現状改善の意識を高め、自立を図る方向に進んでいることを明らかにした。