氏   名
Yang,Hai jun(ヤン ハイジュン)
楊   海 軍
本籍(国籍)
中華人民共和国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第130号
学位授与年月日
平成11年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物環境科学専攻
学位論文題目
景観保全の観点にたった森林から人工草地化への影響に関する研究
(Study on The Infection of the Pasture Establishment from Forest under the Viewpoint of Landscape Conservation)

 森林(林地)から人工草地化への環境影響については、いままで水土保全を中心に立地条件の変化を主眼とした多くの研究集積がある。しかし、景観(視覚的な景観)保全の観点での研究はほとんどみられない。林地の人工草地化が環境に影響を与える要因は景観を支える立地条件の変化はもとより、景観構造(可視・不可視情報の解析、景観構成要素(草地と牧野樹林)の分布把握、景観類型)および景観のイメ-ジの変化も大きいと考えられる。しかし、いままで行われている景観評価において、景観構造の評価と地域住民による景観のイメ-ジに対する評価が別個に扱われていることは適切でないと考えられる。したがって、景観保全の観点から①景観を支える立地条件の変化、②景観構造の評価、③変化した景観のイメ-ジに対する地域住民による主観的評価を総合的に把握することは極めて重要である。とくに、林地の人工草地化が景観に与える総合的な影響評価および具体的な評価手法に関しては、まだ十分に検討される段階には至ってない。

 そこで、本研究は丘陵型大規模草地やスキ-場を対象として、今後の景観保全計画の策定と景観整備のあり方を提言することを目的に、景観全体を系統的にとらえ、景観保全の観点にたった林地から人工草地化への影響を検討した。すなわち、第1に、草地やスキ-場の造成に伴う景観を支える立地条件の変化を明らかにした。第2に、草地やスキ-場の造成に伴う景観構造の変化を検討した。第3に、変化した草地やスキ-場における景観のイメ-ジに対する地域住民による評価を行った。最後に、これら草地やスキ-場の景観に影響を与える各要素と住民評価との相互関係を検討した。以上の検討により林地から造成される丘陵型大規模草地やスキ-場の景観評価手法を提示した。

 1.調査地

 ①.スキ-場調査対象地は盛岡市の西部に接続する奥羽脊梁山地の東部に位置する岩手県雫石町内の既設Aスキ-場、Bスキ-場およびCスキ-場である。

 ②.北海道の大規模草地の調査対象地は北海道十勝平野の北西における士幌町に位置している。対象地の草地開発では、770haの山林内において436haの草地が造成される事業である。

 2.景観を支える立地条件の変化

 景観を支える立地条件を主として土壌環境として位置づけ土壌の物理性、侵食性、浸透性および落葉層の有無が浸透性に及ぼす影響などを検討した。その結果、林地から人工草地化に伴い大型機械の転圧などによって土壌が固結化し、粗孔隙率の減少による透水性の低下や団粒の破壊による侵食性の増大が明らかになった。

 3.景観構造の変化

 地形、植生、土地利用による景観の類型区分および視覚的な構造の両側面から景観構造を把握しその変化と保全について検討を加えた。

 初めに、地形、植生、土地利用のデ-タから草地造成地を13種の景観類型に分類した。その結果、景観保全上重要な構成要素を明らかにし、それらの景観保全上の重要度を景観類型ごとに把握した。

 さらに地理情報システム(GIS)により、造成地内外の視点からの「可視・不可視」と「被視頻度」を評価指標として草地景観の主たる構成要素となる草地と牧野樹林(草地周辺樹林を含む)の割合別に応じた可視量について定量的に検討した。可視領域が多く、被視頻度も高い地域は、景観に与える影響も景観保全上の重要性も高く、重要な景観保全対象になると考えられた。すなわち、その景域に入る景観構成要素に対する適切な修景が必要である。また、多数の視点を想定し、それらの視点からの可視領域をもとに、各対象地点の被視頻度を求め、被視頻度が高い地域は景観保全の重要性が高く、草地景観の評価指標としても有効であることが認められた。

 4.住民によるスキ-場、草地景観のイメ-ジに対する評価

 住民評価としてSD法により抽出された評価軸をとりあげ、異なる評定者グル-プによる評価を行い、心理反応の側面から草地やスキ-場の景観評価構造について検討した。

 スキ-場については【美観・調和性】および【雰囲気性】、【空間性】の3評価軸が抽出された。スキ-場上部の造成方法は伐採のみで低木が残存し緑が多いため、評価軸の【美観・調和性】および【雰囲気性】の評価は高い。また、中部、下部の造成方法は同様の機械による耕起造成であるものの、侵食が激しいため、下部の【美観・調和性】および【雰囲気性】の評価は低い。すなわち、スキ-場の造成および造成後の維持管理不良による生態的立地条件の悪化が景観のイメ-ジに連動する。

 草地景観については、因子分析の結果、草地景観を規定する要因として【快適性】、【調和性】、【空間性】の3評価軸が明らかになった。草地と牧野樹林を組み合わせた景観類型が各評価軸で高い評価を得ていることが認められた。すなわち、牧野樹林が景観にアクセントを与え、景観を向上させる役割を果たしたことがわかった。このことからの牧野樹林の配置およびその色彩(常緑樹、落葉樹)は【調和性】に関する得点を高めると考えられる。

 また、評定者各グル-プの評価軸を代表する形容詞対や寄与率の違いにより、評定者の各草地景観類型に対する要求や意識の違いが景観評価にも影響を与えたことが認められた。

 5.各要素間の相互関係

 景観を支える立地条件と住民評価との間に相互影響関係がみられ、土壌侵食性、林地の割合などの要因が住民のイメ-ジに強い影響を与えていることがわかった。このことから立地条件の不良が植生に悪影響を与えて、長期的には景観のイメ-ジに連動することが定量的に明らかになった。

 また、景観構造と住民による草地景観評価との間に相互影響関係がみられ、牧野樹林は草地景観評価に良い影響を与えることが認められた。

 以上のように、丘陵型大規模草地やスキ-場の景観に関わるこれを支える立地条件、景観構造、住民による景観のイメ-ジに対する評価の一連の関係が明らかになった。

  以上の検討をふまえて、景観保全の観点にたった林地から人工草地化への影響に関する本研究に基づいた景観評価プロセスを次のように提示する。

 ①景観を支える立地条件(土壌環境)の分析、評価をする。

 ②地形と植生および土地利用により景観類型を行い、景観保全上の重要な類型を明らかにする。

 ③地理情報システム(GIS)により重要な景観類型や主要景観構成要素(草地と樹林の割合)をシミュレ-ション(「可視・不可視」や「被視頻度」)して、景観構造を解明する。

 ④地域住民により変化した景観のイメ-ジを評価し、景観保全上の評価軸をSD法などにより抽出する。

 ⑤景観類型ごとに景観の立地条件と住民評価および景観構造と住民評価の関係を解明し、景観保全上の主要な要素を抽出する。