氏   名
Guo, Shun-tang
郭  順 堂
本籍(国籍)
中華人民共和国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第124号
学位授与年月日
平成11年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物資源科学専攻
学位論文題目
豆乳の調製および加工における脂質とタンパク質の変化
(Changes in States of Lipid and Protein on Soybean Milk Processing)

論文の内容の要旨

 大豆はタンパク質および脂質に富む作物であり、古来利用されてきた。豆乳は大豆を原料とし水で抽出後加熱したものであり、大豆のほぼすべての成分を含んでいる。それよりできた製品にはタンパク質以外に脂質も多量に含まれ、製品のテクスチャー、美味しさに関与している。また、脂質は調理加熱しても遊離せず極めて安定に保持されている。しかし、豆乳の調製における脂質やタンパク質の存在状態および脂質の安定性がどのようにして形成されるか等ほとんど分かっていない。そこで、本研究では伝統的な豆乳の調製・加工過程における脂質とタンパク質の存在状態およびタンパク質・脂質の凝集過程について研究した。

 浸漬大豆を磨砕し得たものを生豆乳とし、それを95℃5分間加熱したものが豆乳である。いずれも白濁していることから、超遠心分離により粒子画分(直径40nm以上)、可溶性画分、浮上画分に分画した。浮上画分および粒子画分は超遠心分離では分離されるが、豆乳中では極めて安定であった。各画分の脂質含量を分析したところ生豆乳粒子画分は全脂質の80%を含んでいたが、加熱し豆乳になるとほとんどが遊離した。浮上画分は生豆乳でわずか数%であったが、豆乳になると豆乳脂質の90%以上を含んでいた。大豆より抽出され脂質の大部分は粒子画分を形成し、加熱によって遊離し、浮上画分へ移行することが分かった。

 さらに各画分のリン脂質含量を分析したところ、生豆乳の粒子画分は2.5%のリン脂質を含み、加熱すると脂質の遊離とともにリン脂質も移行したが、粒子画分中の含量は2.5%であった。リン脂質組成は粒子画分、浮上画分とも類似していた。リン脂質は両親媒性を示すことから粒子および浮上画分の安定性に寄与していると考えられる。

 生豆乳から豆乳への加熱過程で各画分の脂質およびタンパク質がどのように変化するか解析した。65℃以上の加熱で生豆乳粒子の破壊が起こり、65℃〜75℃で脂質の約半量が可溶性画分へ移行し、75〜90℃でほとんどが浮上画分へ移行した。75℃でβーコングリシニンのα、α'サブユニットの大部分が解離し、グリシニンはその変性温度である80〜90℃でサブユニットに解離し可溶性画分へ移行した。これらの結果は脂質の遊離とグリシニンの熱変性が密接な関係をもっていることを示唆している。

 脂質の遊離と共に浮上画分のタンパク質が増加し、特にグリシニンのベーシクサブユニット近傍に2つのバンド(BX1、BX2とした)が現れた。BX1、BX2は浮上画分タンパク質の55%以上を占めたが、豆乳中では全タンパク質の3%でありマイナーな成分であった。BX1、BX2は加熱により脂質と一緒に遊離することから脂質と複合体を形成していると考えられる。BX1、BX2の分子量はSDS-PAGEで21000と16000であり、BX1とBX2およびBX1、BX2と他のタンパク質の間にS-S結合の存在は認められなかった。

 次に豆乳を凝集剤(塩化カルシウム)添加あるいはpH低下により凝集させた場合、タンパク質および脂質(浮上画分)がどのように凝集して行くか研究した。豆乳浮上画分はタンパク質の凝集に先立って減少することが分かった。そこでタンパク質を粒子画分と可溶性画分に分け、浮上画分の減少がどちらの画分と優先的に結合するか研究した。浮上画分は粒子画分の減少と平行して減少したが、可溶性画分では同様の塩化カルシウム濃度、pHで減少しなかった。可溶性画分では塩化カルシウム添加、pH低下により新たな粒子が生成し、その粒子の減少につれて浮上画分も減少した。これらのことは、凝集物への脂質の取り込みがタンパク質粒子と浮上画分(脂質複合体)の結合によることを示唆している。

 以上のことから、豆乳の脂質は加熱前にはタンパク質と巨大な粒子を形成しているが、加熱によりグリシニンの変性解離とともに脂質複合体として遊離する。豆乳を凝集剤添加あるいはpH低下により凝集させた場合、脂質複合体はタンパク質の凝集に先立ってタンパク質粒子と先ず結合し、凝集物へ取り込まれる事が示唆された。