氏   名
Jin,Sheng he(ジン シュンヘ)
金   聖 鶴
本籍(国籍)
中華人民共和国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第114号
学位授与年月日
平成11年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物生産科学専攻
学位論文題目
総合農協の生産性の推移とその要因
ーTotal Factor Productivity(TFP)による分析ー
(Trend and Decomposition of Productivity of Multipurpose Agricultural Cooperatives
ーTotal Factor Productivity Approachー)

論文の内容の要旨

 日本の農協は,戦後,1955年以降の経済の高度成長,好調な経営環境に支えられ,急速な拡大を遂げてきたが,近年,バブル崩壊,金融危機のもとで,積み残された農協の諸問題・諸矛盾が一挙に噴出し,今日,組織および事業体制の抜本的な見直しを迫られ,戦後,最大の転換期を迎えている。

 しかし,これまでの農協研究はどちらというと,運動論,制度論に関する業績が多く見られ,計量的な手法による農協の経営分析は少なかった。たが,1985年以降,農協を取り巻く環境の変化に伴い,農協も競争力強化が求められてくると,計量的な手法による農協経営の分析が,試みられるようになった。しかし,十分な分析は行われていない状況にある。

 現在の日本の農協が,21世紀を展望して,新しい農協組織の再編ビジョンを示すためには,何よりも,まず農協が組織されてから約半世紀の間,経営上どのような道のりを歩んできたかを,環境変化のかかわりにも配慮し,総合的に分析する必要がある。今までの農協発展の過程で何が基本的問題であったかを明らかさせねばならない。そして,その基本的問題の解決を踏まえて,はじめて21世紀の新しい日本の農協の未来があるといえる。

 農協組織は,1994年9月に第20回全国農協大会を開催し,『JA事業・組織の改革と強靭な経営体質の構築』という決議を行った。その中で「JAグループ全体の労働生

産性(職員1人当たり事業総利益)を西暦2000年までに30%向上をめざします」という目標に掲げている。しかし,この目標には次の3点の問題がある。まず,第1点は,西暦2000年までに労働生産性を30%向上させることは,年率換算で3.8%の向上であるが,この年率上昇率は,これまでの農協経営の辿ってきた経過からみて達成が極めて難しい水準であるという点である。第2点は,仮に労働生産性が西暦2000年までに30%向上したとしても,それで健全な経営と言えるのか,現状の経営を分析する限り,そうとは言えない状況にある。第3点は,労働生産性の目標は具体的な数字まで示されているものの,資本の生産性については,目標値を示されていない点である。著者の経営分析が示すところは、農協の資本生産性の低下は顕著であり,労働生産性以上に大きな問題があるということである。

 したがって、農協は自ら今日までの経営展開をきちんと分析し,何が問題であり,今後どうすべきかを把握し,経営戦略をたてることが必要であると言えよう。しかしながら現状は,目標といってもスローガン的な性格が強く,主体的な経営戦略という色合いは薄く、今後の農協に対して危惧せざる得ない。

 本研究は,日本の農協の生産性の全体像を把握し、その変化の要因について明らかにした。第2章では、総要素生産性の理論を用いて,1966年度から95年度まで29年間の農協の総要素生産性の推移を計測し,その推移の要因を三つの類型農協に分けて分析を行った。補足として,労働生産性および資本生産性を分析し,その推移も明らかにした。第3章では,計測された総要素生産性の推移について,総費用関数を用いて,要因分解を行い,総要素生産性の伸び率が農協内外要因にどれだけの影響を受けたかを分析し,農協経営の展開が日本の経済全体の変化とどのようなかかわりがあったかを明らかにした。さらに,農協の分析において,いままでほとんど研究されてこなかった資本生産性について,優良農協といわれている銚子市農協を対象に,有形固定資産の投資およびその利用状態を実態調査し,資本生産性の低下,資本の非効率の実態を具体的に明らかにした。

 以上,本研究により,日本の総合農協の発展が高度経済成長と密接な関わりを持っており,経済の低成長および金融自由化により,現状では農協の生産性が停滞していることが明らかになった。また,農協の生産性については労働生産性にいてのみ議論していたが,資本生産性も考慮する必要があり,より包括的な総要素生産性により分析を進めることの有効性を示すことができた。