氏   名
Cao,Qiu fen(ツアオ チュウフン)
曹  秋 芬
本籍(国籍)
中華人民共和国
学位の種類
博士(農学)
学位記番号
甲 第111号
学位授与年月日
平成11年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生物資源科学専攻
学位論文題目
リンゴ'ふじ'におけるMCPBエチルの摘花効果に関する研究
―その実用化と作用性―

Studies of Blossom Thinning Effect of MCPB-ethyl on'Fuji'apple   ―Analysis of Practical Use and Mechanism―

論文の内容の要旨

 本論文は、日本において最も栽培が多い主要品種である'ふじ'に対して効果が高く、しかも人畜、訪花昆虫に対しても安全な薬剤である摘花剤として、MCPBエチルが極めて有望であることを見出し、MCPBエチルの実用化に当たって明らかにしなければならない散布時期、散布濃度、果実形質や品質に及ぼす影響および効果安定の方策などを検討し、併せて本剤の作用機構を、花粉および花器形態への影響やエチレンとの関連から明らかにしようと試みて以下のような結果を得た。

 1、リンゴ'ふじ'に対する散布時期については中心花満開1日後から、同3日後頃までが散布適期であった。

 2、MCPBエチルは未受粉の花やつぼみに対して強い結実抑制効果を示すが、受粉後数時間の経過で抑制効果は弱まり、24時間経過後は全く結実抑制効果は消失した。そのため、MCPBエチルの摘花効果を左右するのは、受粉の成否であることが分かった。受粉によって摘花効果が低滅する原因としては、花粉由来または受粉の刺激によって誘導された何らかの生長調節物質がMCPBエチルの作用を抑えたと推定されたが、本研究ではそれらの物質の同定はできなかった。

 3、散布濃度については、摘花効果およびエピナスティの発生程度の両面を勘案して、15ppmが標準最適濃度と考えられた。

 4、果実肥大抑制や果形の変形は認められなかったが、花柄がやや長くなった。しかし、このことによる不都合は栽培面、果実商品性の両面で認められなかった。着色も含めて果実品質への悪影響も見られなかった。

 5、カルバリル剤併用の効果は認められず、むしろ、カルバリル剤の効果を期待することで仕上げ摘果に入る時期が大幅に遅れる恐れのあることが分かった。

 6、培地および柱頭での花粉発芽、花粉管伸長、花粉管の形態等を観察したが、MCPBエチル処理による阻害効果は観察されなかった。このことから、MCPBエチルの摘花作用は花粉や花粉管の生長あるいは花柱の組織を害することに由来するものではないことが推定された。

 7、胚珠の発育への影響を検討した結果、MCPBエチル処理によって珠皮と珠心組織が萎縮し、種子に生長しないことが分かった。このことから、MCPBエチルの摘花効果、すなわち結実抑制効果は未受粉の幼い胚珠に何らかの異変を起こして結実を抑えることが推定された。また、胚珠が崩壊した後に花柄と結果枝の間に離層が形成し落花に至ることが観察された。

 8、エチレン発生促進剤エテホンを加用散布すると、摘花効果は明らかに高まり、エチレン発生抑制剤AVGを加用すると、MCPBエチルの摘花作用が打ち消された。

 9、摘花効果の変動は開花後あるいは散布後の気象条件に左右され、低温が続く年には効果が低く、これらの年は同時に花器からのエチレン生成が極めて少ないことが分かった。

 10、離層形成期に一時的にエチレン生成が高まる現象が観察されたが、MCPBエチル散布に起因すると考えられるエチレン生成は認められなかった。

 11、エチレンはMCPBエチルの摘花効果、すなわち幼い胚珠組織に変異を起こさせ受精を阻害する場面での必要条件となっていることが推定され、そのためMCPBエチルの効果を高め、不良気象条件下でも安定した効果を得るためにエテホン加用が有効なことが分かった。