氏   名
菊 池   司
本籍(国籍)
日 本
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
甲 第17号
学位授与年月日
平成11年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
電子情報工学専攻
学位論文題目
雲のビジュアルシミュレーション法の開発に関する研究

論文の内容の要旨

 映像コンテンツの制作には,CGを中心としたディジタル映像技術の利用が不可欠となっている。近年,特に映画の制作においては,実写映像とCG映像の違和感のない合成技術が開発,利用されており,自然界に存在する様々な物体や現象をリアルに表示するCG技術の開発が,ますます重要なテーマとなっている。

 一方,自然物や自然現象の表現においては,その形成メカニズムに基づいた手続き的なモデリング法(シミュレーション法)が開発できれば,形や運動を自動生成するという,動画映像の生成も可能な表現法が実現できる。

 本論文ではこのような背景のもとで,自然現象の中でも,景観映像を制作に欠かすことのできない“雲”に着目し,積雲型の雲の形成シミュレーションを行うためのパーティクルベースのモデリング法と,高精細な雲の映像生成を可能とする一次散乱を考慮した3次元テクスチャマッピング法によるレンダリング法を提案する。

 CGによる雲の表現法を提案したこれまでの研究例としては,雲の静止画像の生成を目的とした方法と,動画映像の生成を目的としたものが挙げられる。前者には,モデリングをフラクタル手法や1/fノイズで行う単純なもの,レンダリングを多重散乱を考慮して行う手法が提案されている。これらの手法においては,モデリングはインタラクティブに行われており,時間変化に伴う雲の発生・成長・消滅や運動までは表現しきれていない。また,多重散乱を考慮したレンダリングでは,映像効果に比べ計算コストが大きいという難点がある。一方,雲の動画像の生成を目的として,雲の発生・成長・消滅や運動を含んだシミュレーション法を提案したものとしては,雲の多数の雲塊の集合と見なし,その雲塊をパーティクル(雲粒子を呼ぶ)で代表させることによりシミュレーションを単純にした方法が挙げられる。この例としては,気流の場をあらかじめ関数定義し複雑な数値計算を避ける手法や,渦場による雲粒子の運動モデルを提案したものが挙げられる。いずれも積乱雲を中心としたパーティクルベースのモデルであるが,積乱雲の成長のシミュレーションにおいて,生成された雲の形状や生成過程での形状変化が単純であり,さらにレンダリングには単純なボリュームレンダリングを用いているため,動画生成や画像の解像度の点から満足できる結果が示されていない。

 本論文で提案する手法は高精細な動画映像の生成を目的としたものであり,モデリング法として,雲粒子の運動シミュレーション法,気流の場の簡易生成法,および凝結モデルを提案している。この運動シミュレーション法では,雲粒子に働く力として,浮力,重力,気流の場から受ける力,および雲粒子間の相互作用力を考慮している。この相互作用力は,雲塊の体積を雲粒子により表現するためのものである。レンダリング法としては,高精細な雲画像を得るための3次元テクスチャマッピング法と,その高速化法,および,等方散乱,ミー散乱,およびレイリー散乱を一次結合した位相関数による一次散乱のみを考慮した効率的なシェーディング法を提案している。

 本論文では,まずこれらの手法について詳細に述べ,さらにこれらの手法の有効性を示すために,種々のシミュレーション例を示す。さらに動画映像の生成例により,積雲,層積雲,および積乱雲の高精細な動画映像が生成可能であることを示す。最後に残された興味ある課題について整理する。