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大 島 修 三 |
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日 本 |
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博士(工学) |
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甲 第13号 |
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平成11年3月23日 |
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学位規則第4条第1項該当 |
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電子情報工学専攻 | ||
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2線接触導体の高周波通電に関する近接効果の研究 | ||
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1.研究の背景と動機 電子機器の小型軽量化に伴い、電子部品および電子回路の高密度化、高周波化が進み、それに伴い表皮効果および近接効果による損失の増加が著しい。 表皮効果および近接効果理論はMaxwellの電磁理論をもとに、多くの先達により特に通信伝送の研究者らにより研究がなされてきた。中でもJ.R.CarsonらはMaxwellの電磁理論を基礎とし、往復線路(異方向通電)の場合について詳細な検討を行った。 しかし、電子機器の高密度および高周波化の要請が強まり、電子部品、特に巻線部品に多く採用される同方向通電の場合の解析手法も必要となってきている。また、線間の位相差も必ずしも同相あるいは逆相とは限らず任意の位相による解析も必要に迫られている。 高周波化が進み、本研究が主として対象にした1MHzの領域を越え、GHzにおよぶ領域において、また、低温或いは線表面粗度により従来の表皮効果および近接効果理論では説明の困難な異常表皮効果の領域にはいる。すなわち、この領域においてはMaxwellの電磁理論の他に、一歩電子物性論に踏みこんだ微視的な手法が要請される。このような背景のなかで本研究を進めた。 2.研究の目的 以上のような背景のなかで、つぎの3点を本研究の主な目的とした。 (1) 近接抵抗をMaxwellの電磁理論よりも一歩微視的側面から解析を行うため、2接触系についてlorentz力により摂動を受けた通電分布における近接効果を考慮して近接抵抗を求める。 (2) 上記の電子物性論的手法を、従来のMaxwellの電磁理論による手法から検証を試みる。そのため、従来のMaxwellの電磁理論による異方向通電の手法を基礎とし、同方向通電における近接抵抗の解析手法を確立する。 (3) 上記の異方向と同方向通電の両手法からMaxwell電磁理論を基礎とする位相差に対する統一式を導く。これにより位相差に対する近接抵抗の予測を行う。 3.研究の成果 (1)電子物性論的手法による2線接触系の近接抵抗(同方向、異方向通電の場合) 2線接触系の同方向通電の場合、電線断面内を通過する電子線電流のそれぞれに線全体を代表する電流が流れているとし、さらに、これにLorentz力が作川するという仮定のもとに、通電分布を導体内の電磁式とCassinian座標の写像関数式から考察した。 つぎに、Fermi電子速度分布に電界が印加された場合の解析手法をLorentz力に置き換えて適用し、それにより電子速度を計算し、その運動エネルギーとLorentz力と電子変位の積で表される仕事が等しいという関係を用い電子変位を計算した。この結果を用い、通電領域の摂動にともなう分布の再形成について考察した。 さらに、Lorentz力による電子の変位後の正電荷はCoulomb力を生じ、反接触点側の電子線電流を引き寄せ、これにより通電分布が再形成されるとしで考察を進めた。以上の結果を用い、これらの電子変位による通電分布をCassinian座標上に描いた。 つぎに、同座標のu,v平面上の各区分を通過する直流電流が等しいという関係を考察し、この関係を用いてu,v平面上の各区分をそれぞれ一個とする個の概念を設定した。さらにこの概念を用い、直流通電面積との比較を行うための基準区分および基準面積を設定し、交流通電面積を計算した。また、直流通電面積との比より交流直流抵抗比を求め、その比は実測値との差において10%以内の結果がえられた。 また、異方向通電の場合は線表廂間の斥力としてのLorentz力が表皮境界内周面における斥力より大きいため、その後退電子により表皮境界面近傍での電子の摂動は生じないと考察した。また、エネルギーモードの異なる領域への電子移動は生じない点も考察に加えた。さらに、Bipolar 座標の磁界等高線が線の相対する領域に鎖交していないことを考慮し、表皮内周面の電子移動はないものと考察した。これらの考察に基き、同方向通電の場合と同じ計算手法を用い、交流直流抵抗比の計算値と実測値との差において10%前後の結果をえた。 (2)Maxwellの電磁理論による2線接触系の近接抵抗 上記の電子物性論的手法を確認するために、J.R.Carsonの異方向通電における近接抵抗の解析手法を基礎とし、これに他線から加えられる磁界の増加を磁界係数として適用し同方向通電の場合の解析手法を確立した。この手法を用いた交流直流抵抗の計算と実測値の差は10%以内の結果がえられ、電子物性論釣手法をMaxwell理論による手法からも確認することができた。 (3)位相差を考慮した近接抵抗の研究 上記のMaxwellの電磁理論による手法はJ.R.Carsonの手法も含め、同方向および異方向通電を包含した解析手法に統一され得るものと考え解析を行った。その結果、単線時の表皮抵抗に対する補正係数の統一式を導いた。 また、標準抵抗を加え単線と2線時のインビーダンスをベクトル手法により解析を行い、位相差に対する近接抵抗の関係について計算と実験の両面から考察した。その結果、位相差が90°および270°にて近接抵抗の増加はないと予測した。
以上、近接抵抗に関する電子物性論に基づく微視的考察を行い、さらに、Maxwellの電磁理論による解折からもその手法の妥当性の確認を行った。また、同相、逆相両面の近接抵抗理論式の統一化を図り、それに基づき位相差に対する近接抵抗の諸性質を予測した。なお、これらの研究は未だ見当たらず、ここに新たな研究手法を提案することができた。
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