氏   名
劉  暁 東
本籍(国籍)
中 国
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
甲 第10号
学位授与年月日
平成11年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生産開発工学専攻
学位論文題目
大型弾性浮体の波浪応答に関する研究

論文の内容の要旨

 近年,沿岸域に於ける空港などの大規模公共施設の建設用地として,浮体式人工島の建設の可能性が活発に検討されている。浮体式が注目される主な理由としては,従来の埋め立て式人工島に比べて,周辺海域の生態系への影響,耐震性能,建設経費及び期間などの点で優れているものと期待されるためである。大型浮体式海洋構造物の実現には,解決すべき多くの課題が残されており,浮体の波浪応答に関する高精度の解析法の開発もその一つである。弾性変形を考慮した浮体の波浪応答の数値解析としては,既にいくつかの方法が提案されており,流体運動の計算には回折・散乱波理論を用い,弾性変形の解析には主にモード展開法と有限要素法が用いられている。これらの方法はいずれも周波数領域の解法であり直接適用できるのは規則波に限られている。線形の範囲内では,周波数成分での解析結果を加え合わせることによって不規則波に対する応答を見積もることは可能であるが,線形の範囲を超える場合や周波数成分間の干渉が存在する場合には,それらを予測することはできない。また,沿岸各地には頻繁に津波が来襲することを考慮すると,津波来襲時の大型浮体の弾性挙動についての検討が重要であるにもかかわらず,この種の研究は非常に少ない,その主な理由は,従来の解析法では非周期波である孤立波に対する応答計算が不可能であることにある。従って,周波数領域解法では解析不可能である非周期波に対する浮体応答の計算に適用し得る時間領域の数値解法の開発が必要となる。
 本論文は,模型実験及び数値計算によって,波浪による大型浮体構造物の弾性挙動を解明することを目的としている。

 第一章では,大型浮体式海洋構造物の必要性,従来の解析法とその問題点,本研究の目的と本論文の構成を述べている。

 第二章では,二次元造波水路を用い,一様水深での規則波,不規則波及び孤立波に対する大型弾性浮体の応答に関する模型実験を行い,それぞれ波浪場での浮体の応答特性を検討し,次の結果が得られた。規則波の実験及び従来用いられる線形理論の計算から,1)浮体変形の伝播波速は入射波周期及び浮体の曲げ剛性に依存する。2)連続弾性浮体下での波動の線形解は有限長さ浮体の変形の伝播速度を良く表現できる。3)浮体の応答変位は,周期と浮体の曲げ剛性に依存し,浮体端付近で急激に減少し,浮体内部での変化は指数的に減衰する。不規則波の実験により,1)不規則波の各周波数成分の応答特性は同一の周波数成分の規則波でのものと定量的に一致している。2)線形の範囲内では,不規則波の応答特性はそこに含まれる周波数成分の応答特性の線形和で表現できる。孤立波の実験から,1)浮体下に進入した孤立波は非線形性の増大と共に分裂すると言う新しい現象が発見され,分裂の発生は水深,波高及び浮体の曲げ剛性に依存する。2)浮体前端近傍での最大鉛直変位は,入射する孤立波の波高,水深及び浮体の曲げ剛性に依存する。3)浮体変形の伝播に伴う最大鉛直変位の減衰は,主に分裂によって生じている。

 第三章では,従来の周波数領域解法では困難であった非周期波を含む任意の波浪場及び分布剛性を有する浮体構造物に対して適用し得る時間領域解析方法として,流体運動と弾性浮体の干渉を扱う境界要素と有限要素の接読解法を定式化している。流体運動にはBEMを,また浮体の弾性変形の解析にはFEMを別個に用い,浮体と流体の界面での変位及び圧力を接続することによって,流体運動と弾性浮体の動的な干渉が計算される.本方法はBEMとFEMの利点を取り入れた計算手法であり,特に以下のような利点がある。1)波浪場及びこれに対する浮体の応答は時間ステフブごとに計算され,時間領域の解が得られる.2)全ての変量は境界面上に設定されており,計算点が少ない。3)速度ポテンシャルに対してなんらの仮定も設けていないため,造波境界条件を与えるだけで,不規則波や孤立波などの非周期波を含む任意の波浪条件に対して適用できる。4)海底勾配を有する海域での浮体応答解析に適用でき,分布質量及び分布剛性を有する構造物に対しても適用可能である。

 第四章では,第三章で提案された時間領域解析法の有効性を検証するため,解の収束性及び安定性に対する空間及び時間分割の影響を検討し,模型実験結果との比較することによって解の精度を検証している。その結果,1)数値解相互の比較による解の収束性及び安定性の検討により,空間及び時間分割の最適組み合わせが得られた。2)実験結果との比較により解の精度を検証しており,本解析法は不規則波あるいは孤立波など,任意の波浪場での弾性応答を精度よく計算できることが明らかとなった。3)本解析手法は,孤立波本体及び分裂波の形状を良く再現しており,分裂といった非線形な現象に対しても十分適用可能であることが分かった。

 第五章では,時間領域解析法の適用例として,まず,孤立波による一様水深での長大浮体の応答持性を解析し,来襲する津波を孤立波として考える場合,浮体設計上の留意点を検討した.次に,孤立波による斜面上での大型浮体の応答特性の解析を行い,浮体の弾性挙動に対する海底勾配の影響を示した。また,氷海域での連続氷板の破壊条件及び破壊幅を解明した。得られた結論は以下のようになる。孤立波に対する長大浮体の応答特性については,1)孤立波が弾性浮体下で分裂するか否かは,入射波の非線型性,水深,浮体の曲げ剛性及び進行距離に依存する。2)弾性浮体下での孤立波の分裂は,自由水面上のソリトン分裂現象とは異なり,分裂波が孤立波本体を先行する特徴を有する。3)分裂が発生する場合,曲げモーメントはTop Tensionの状態より,むしろBottom Tensionの方が卓越することもあり,これは来襲する津波を孤立波と考えた場合,津波対策としての浮体構造の補強を考える際に重要となる。浮体の応答特性に対する海底勾配の影響については,1)一様水深の場合に比べて,海底勾配を有する場合には,水深の減少に伴い孤立波の分裂が顕著となる。2)海底勾配が大きい場合には,水深の減少に対応して変位振幅が増大するが,それ以上に浮体に作用する曲げモーメントの増大が著しい。氷板破壊のメカニズムについては,1)ここで提案した氷板破壊条件は実験結果を良く表現している。2)氷板の破壊幅は氷板下での波長に依存しており,波長の1/4〜1/2であり,入射波周期,氷板の厚さ及び弾性係数によって決まることが明らかとなった。3)本論で開発した数値解析法は破壊幅に関する上記の結果を良く表現している。

 第六章は結論であり,本研究で得られた主な結果を要約すると共に,今後の研究の展望について述べられている。