氏   名
土 田 貴 之
本籍(国籍)
日 本
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
甲 第9号
学位授与年月日
平成11年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生産開発工学専攻
学位論文題目
局所系の損傷過程と全体系の耐震特性を考慮した橋梁システムの耐震設計法に関する研究

論文の内容の要旨

1)目 的

本研究の目的は、大規模地震時の局所系の損傷やこれに伴う構造系の変化が橋全体系の 耐震特性に与える影響を明らかにするとともに、橋梁をシステムとして捉えた考え方を 耐震設計に新しく取り入れることによって、対象橋に対して合理的な耐震構造を提案 することである。

 橋梁は、上部構造、橋脚、基礎構造、支承、落橋防止装置等、固有の目的と機能をもつ種々の要因が有機的に結合されることによって成立する構造物である。本論文では、これを橋梁システムと呼び「全体系」として位置づけた。一方、全体系を構成する塑性ヒンジ形成箇所や支承あるいは境界条件等はサブシステムと呼び「局所系」と定義した。個々の局所系の機能と損傷特性は、非線形特性を有する適切な解析モデルによりモデル化できる。また、全体系解析モデルは、これらの局所系モデルを有機的に結合することによってモデル化が可能である。この全体系解析モデルを用いた静的プッシュオーバー解析や動的解析によって、実構造物に大規模地震が作用したときの挙動や構造系の変化が精度よく推定できる。

 しかしながら、橋梁をシステムとして捉える耐震設計は、これまで充分に検討されていなかった。本論文では、数種類のラーメン橋や橋台固定式橋梁に対して、この新しい耐震設計法の考え方の適用を試みるとともに、対象橋に対して種々の合理的な耐震構造を提案した。

2)背 景

 従来の耐震設計は、本来、不規則な地震動の影響を静的な力に置き換えて、それを構造物に作用させて解析する震度法が中心であった。この設計法は、地震時の構造物の安定性や部材の応力度の計算を常時の設計と同様に簡単に行うことができることから、現在まで多種多様な土本構造物の耐震設計に用いられている。

 1995年兵庫県南部地震では、コンクリート構造、鋼構造ともに甚大な被害を受けた。この地震以降、従来の設計では対象とされていなかった内陸直下型の大規模地震に対する耐震性の照査が課題として採り上げられるとともに、地震時保有水平耐力の照査の有効性が本格的に検証されるようになった。地震時保有水平耐力法は、1自由度とみなせる構造系に対しては充分な精度を有していることが、これまでの研究により確認されている。しかし、ラーメン橋や、特殊な桁橋である橋台固定式橋梁等に対しては、その適用性が充分に確認されていない。さらに、この設計法は、ある想定した設計地震力に対しては、全体系を構成する各々の橋脚系が必要な耐力や変形性能を有していることは解析可能であるものの、全体系が終局状態に至るまでに、どの部位が、どのような順序で損傷していくのか、また、これらの局所系の損傷過程が全体系の耐震特性にどのような影響を与えるのか、あるいは設計地震力を超える地震が作用した場合の耐震安全性の冗長性がどれだけあるのか確認できない等の問題がある。

3)論文の構成

 本論文は合計7章から構成される。

 第1章は、研究の背景や目的をまとめている。

 第2章は、わが国の道路橋を中心として各種の耐震設計基準や耐震設計法を整理するとともに、本研究で提案する橋梁システムの概念を、全体系、橋脚系、局所系、材料系に分類整理した。  

第3章では、平地部に建設される橋脚高さが低い等橋脚を有するラーメン高架橋に対して、プッシュオーバー解析とエネルギー一定則の適用による弾塑性応答変位の算定を試みた。その際、荷重の載荷方法や基礎の境界条件が、動的解析やプッシュオーバー解析における局所系の損傷過程と全体系の耐震特性の関係に与える影響を検討した。

 第4章では、山岳地に建設される不等高橋脚を有するラーメン橋を対象とし、局所系の損傷状態のモデル化として2種類の局所系モデルを比較するとともに、地震荷重の載荷方法の違いによる全体系の耐震特性を比較することによってプッシュオーバー解析の応用の可能性を検討した。

 第5章では、第4章で検討したような不等高橋脚ラーメン橋に対して、従来の鉄筋コンクり−ト橋脚より耐震的かつ経済的な橋脚として合成構造橋脚を提案し、その耐震的および経済的優位性を交番載荷試験と全体系解析モデルを用いた非線形動的解析により確認した。

 第6章では、特殊な桁橋として既設の多層コンクリートラーメン橋脚を有する橋台固定式橋梁を取り上げ、動的解析により橋軸方向および橋軸直角方向の局所系の損傷過程と全体系の耐震特性の関係を明らかにするとともに、合理的な耐震性向上策を提案した。

 第7章では、本論文を総括するとともに、今後の課題について述べた。

4)研究の成果

 本論文で取り上げたように、局所系の損傷過程と全体系の耐震特性との相互関係を明確にした耐震設計法を用いた場合、次のような長所がある。

  • 大規模地震による地震力と局所系の損傷状態を考慮した全体系解析モデルを採用することによって、実構造物の大規模地震時の挙動を精度よく表現することができる。
  • 任意の大きさの地震力に対する局所系と全体系の損傷度の相互関係が明確になるため、設計地震力に対する全体系の損傷度がさらに明確になる。
  • 想定地震力より大きな地震上が作用した場合、全体系の耐震安全性の冗長性が明確になる。
  • 全体系に最も影響を及ぼす局所が推定できることによって、全体系にとって最も望ましい損傷過程が推定でき、これに対して合理的な耐震設計が可能になる。
  • この考え方は耐震補強設計における補強対象部位を特定する場合にも有用である。
  • 建設された橋梁が地震被害を受けた場合に、特定の局所系の損傷度をモ二タリングすることによって全体系の健全度が評価できる。