氏   名
八 戸 俊 貴
本籍(国籍)
日 本
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
甲 第6号
学位授与年月日
平成11年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
生産開発工学専攻
学位論文題目
偏心を伴う水平二重管環状部における自然対流熱伝達に関する研究

論文の内容の要旨

 将来的なエネルギの枯渇に関する危機感からエネルギ有効利用における関心が高まりつつある現在,特別な動力を用いない自然対流を利用した研究が注目を集めつつある。自然対流を利用したシステムは流れの駆動力として重力を利用し,発生した流れによって熱を伝えるため,外部から特別な動力の供給を必要としない。そのためそれによって熱エネルギを回収するような熱交換器や,熱エネルギを蓄える蓄熱システムなどに利用するような場合には外部動力や熱損失の低減化を果たすことが可能になると考えられる。そのようなシステムを考える際に応用範囲の点から,本研究においては水平二重管環状部における自然対流熱伝達に着目した。

 水平二重管環状部における自然対流熱伝達に関しては,物理的に内管側を加熱し,外管側を冷却する場合と外管側を加熱し,内管側を冷却する場合の2つの加熱形態が考えられるが,外管側を加熱し,内管側を冷却した場合の水平二重管環状部における自然対流熱伝達は,相変化物質を利用した夜間電力の平準化,太陽熱集熱器などに利用できる可能性があると考えられ,本研究ではエネルギの有効利用および省エネルギの観点から外管側を加熱し,内管側を冷却した場合の水平二重管環状部における自然対流熱伝達に着目した。そのような利用を考える際に問題となるのは各種条件下における伝熱量変化が挙げられる。水平二重管環状部における自然対流では対流形態および伝熱特性に関連するパラメータとして,管形状,作動流体,偏心量および偏心方向などが考えられる。そのため,各種条件下における伝熱量変化を通してパッシブな伝熱制御技術に関する可能性を示すため,実験及び数値解析による研究を行った。

 第1章の序論では本研究における研究背景,従来の研究の比較,本研究の目的に関して言及した。

 第2章では基礎的研究として作動流体を空気とした場合における二重円管内の自然対流熱伝達に関して,実験と数値解析を行った結果を示した。実験と数値解析結果は比較的良い一致を示したため,数値解析手法の妥当性が検証された。その後偏心量,偏心方向,Ra数を変化させて計算を進め,それらの違いによる伝熱量変化を調べた。その結果,内管を上半部に偏心させることにより,若干伝熱量が増加するため,伝熱を促進する効果があること,水平および下半部に偏心させることにより,伝熱量が減少するため,伝熱を抑制する効果があることが判明した。

 第3章では作動流体を空気とした場合における二重楕円管(外管側が楕円管,内管側が円管)内の自然対流熱伝達に関して,実験と数値解析を行った結果を示した。楕円管内の自然対流熱伝達に関する研究は非常に少なく,明らかにされていない点が多いため,本研究では同心の場合および偏心させた場合の両方を考慮して,実験及び数値解析を行った。実験と数値解析結果は比較的良い一致を示したため,数値解析手法の妥当性が検証された。また,管形状を楕円管にした場合には,円管の場合と比較して楕円の長径と短径との比で表現される楕円率および,楕円管の配置(縦形楕円,横形楕円など)といったパラメータが増えることになる。そのため計算を進めるに当たっては,楕円率,偏心量,楕円管の配置,Ra数,内管の半径を変化させた場合における伝熱量変化を調べた。その結果,同心の場合,楕円管を横にすること(横形楕円)で伝熱量が増加するため,伝熱を促進する効果があることが判明した。また,偏心させた場合には,楕円管を縦にし(縦形楕円),垂直上方に偏心させることにより伝熱量が増加するため,伝熱を促進する効果があること,および楕円管を横にし(横形楕円),水平方向に偏心させることにより伝熱量が減少するため,伝熱を抑制する効果があることが判明した。

 第4章では作動流体を水とした場合における二重円管内の自然対流熱伝達に関して,実験と数値解析を行った結果を示した。前述したように,水平二重管環状部における自然対流熱伝達を各種熱交換器,蓄熱装置に使用する事を考えた場合,より熱容量の大きい水を使用する事が考えられる。しかし作動流体を水にした場合,水特有の密度反転効果があり,さらに偏心させた場合も考慮すると流れの形態はより複雑になるため,実験に際しては流れの可視化も行った。そして実験と数値解析結果は比較的良い一致を示したため,数値解析手法の妥当性が検証された。従来の二重円管内の自然対流に関しては,その現象のほとんどが2次元である事が確認されている。さらに3次元性を持つ場合に関する研究は非常に少なく,作動流体を水にした場合に関して流れの3次元性を指摘した研究はほとんど見あたらない。本研究では内外管の設定温度を変化させ,水の密度反転域に関しても着目し,その流れの可視化から密度反転域における流れの3次元性に関して可視化写真を通して検証した。そして,流れが3次元性を示すのは水の密度反転域が主であり,そのような条件下では同心及び偏心させた場合の両者に関して3次元性を示すという事がわかった。

 第5章では結論として,各章で得られた結果に関してまとめ,偏心を伴う水平二重管環状部における自然対流熱伝達に関する研究において得られた結果全体を述べた。

 本論文は,上記のように偏心を伴う水平二重管環状部における自然対流熱伝達に関して各種パラメータを変化させ,伝熱量に対する作動流体や各種パラメータの影響を明らかにして,偏心を伴う水平二重管環状部における自然対流を利用した伝熱制御の可能性を示すという観点から研究を進め,その結果をまとめたものである。