氏   名
鈴 木 啓 之
本籍(国籍)
日 本
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
甲 第4号
学位授与年月日
平成11年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
物質工学専攻
学位論文題目
分子結晶性化合物の設計、合成及び機能化に関する研究

論文の内容の要旨

 近年、有機物質の産業への応用は、このマクロな性質の利用から、分子またはその集団を巧みに操るミクロな機能性の利用へと変化してきている。この背景には、従来とかく接点の少なかった物質系と生命系の研究知見を分子レベルで融合させようとする考えがある。その中で常に意識されているのは「機能発現と分子配列との関係」である。分子の空間配列構造,あるいは分子認識・分子間結合によって特徴付けられる分子結晶は、物質系,生命系を問わず分子集合体の化学を代表する精緻なシステムの一つである。この分子結晶形成に於ける機能バランス、即ち分子認識と集積との関係は、分子が組織化するための重要な情報を含んでおり、結果として発現される機能は、新物質への応用並びに生体機能の解明へと繋がる可能性が高い。

 本研究の目的は、結晶場に於ける分子の組織化がどの様な力に支配され、その構造が機能発現とどの様な相関を示すのかを明らかにすることにある。そして更に、機能制御の場としての分子集積・組織化について、新しい方向を示すことにある。本研究では、ホストーゲスト関係に基づく包接結晶に関して、拡散性と共に水素結合性が強調されたフェノール種が、包接結晶格子を創造する上で極めて有効に機能することを見出した。この分子ユニットを用いて、分子の組織化と機能発現との関係について、分子化学並びに構造化学的両面から詳細に検討した。さらに、活性制御並びに反応場としての新たな分子結晶の可能性についても検討した。
 本論文は、これらの研究成果を7章にわたって整理体系化したものである。

 第1章では、分子結晶の基本的概念と機能特性、並びに本研究の目的について述べた。

 第2章では、分子の組織化に多様性と柔軟性を組み込むことを目的として、包接結晶形成能に優れるフェノール種の拡散的配置について検討した。水素結合の本質的寄与を促す「分子積み木」的発想に基づいた新しい分子ユニット,テトラキスヒドロキシフェニルエタン(mP)を見出し、分子集積に於ける拡散的水素結合の有効性を立証した。

 第3章では、系統的に包接結晶のX線回折,固体NMRスペクトルを測定し、TEPの分子組織化機構について構造化学的な考察を加えた。相互作用点が発散的に複数の箇所で相補的に組み合わさると、分子間ネットワークが形成されることを示した。 TEP によって導かれる集積構造はホストーゲスト間の水素結合形態に支配され、その結合はゲスト分子の官能基特性及び構造的適合に基づいて構築されること明らかにした。

 第4章では、TEP系構造ブロックの機能について分子化学的な立場から研究し、水素結合形態決定の諸因子について考察した。mP系ク口ミック分子のゲスト認識に伴う視覚色彩変化は、水索ドナー/水素アクセプター関係に基づくホストーゲスト間水索結合の重要性を示唆した。また、TEPフェノールのo一位への置換基導入により、TEPの包接能がフェノール水酸基の空間的自由度と関係していることを確認した。更に、mP―イソチアゾロン包接結晶を用い、包接結晶形成反応に及ぼす溶媒効果について検討した。分子軌道計算を含めた物理化学的考察により、ホスト並びにゲストに対する溶媒和が、集積形態決定の主要因子であると結論付けた。

 第5章では、分子集積に於ける水素結合の果たす役割を理解し、更なる利用を目的として、mP−イソチアゾ口ン包接結晶の動的特性について検討した。その結果、TEPが形成する動的な二次元水素結合ネットワークの下で、包接されたイソチアゾロン分子が格子空間に適合する小分子と選択的に交換することを見出した。分子力場並びに軌道計算によるシミュレーションは、このゲスト交換反応が構造特異的であることを支持した。

 第6章では、分子結晶の機能を反応場としての可能性から追求した。 TEP 包接結晶化に伴うイソチアゾロンの活性並びに電子構造の変化を検討し、分子組織化による活性制御の可能性を示唆した。一方、mP−ジアミン包接結晶とアルデヒドとの不均一固体反応に於いて、固体反応が局所的構造規制によって制御できることを見出した。精密配列と分解という二つの相反する機能の融合によって、新たな活性制御の場を構築した。

 第7章では、本研究の結果を総括し、基礎並びに応用の両面から分子結晶の今後の展望について述べた。

 以上、本研究では、発散的な相互作用場の有効性を、特別に設計された分子同士の相互作用,並びにその結果として得られる規則的集積構造体の物性から考察した。そして、分子工学に基づく分子合成と集積化によって、特異場としての新しい性質を持つ分子結晶が構築できることを明らかにした。