氏   名
相 藤  茂
本籍(国籍)
日 本
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
甲 第1号
学位授与年月日
平成11年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
専  攻
物質工学専攻
学位論文題目
乾式消化法による消石灰の製造とその性状に関する研究

論文の内容の要旨

 消石灰は古くから使用されてきた材料の1つである。江戸時代までは土木、建築等の材料そして肥料として需要があった。明治時代になると産業の勃興と共に少しづつ用途は拡大し変化している。

 現在の需要は、環境に関する以外減少傾向にあり新しい用途開発が強く望まれている。しかしながら消石灰は、用途に応じた形状や粒径の制御が必要であるにもかかわらず十分な考慮がはらわれていない。

 従来消石灰の物性に関する報告は、化学合成された炭酸カルシウムや特定の産地の石灰石を用いた研究が多く、結果は実状と合わない。特に乾式消化法で製造した消石灰の性状に影響する要因と考えられている石灰石の成因(主に結晶粒径、不純分)、消石灰の原料となる生石灰の焼成条件(焼成温度、焼成雰囲気)、乾式消化条件などの一連の関係についての研究は見当たらない。

 そこで筆者は、新しい特性を有する消石灰を開発するために、生石灰、消石灰の原料となる石灰石の成因が焼成条件によって乾式消化法で製造した消石灰の性状への影響に関する研究を主として行い、一部有機ハロゲン化物雰囲気焼成方法実用化の研究を行った。そして以下の結論を得た。

 各地の石灰石の結晶粒径と熱的特性の関係を調べた。850℃における熱分解速度は、塊状試料(石灰石を切断して調製した試料)では結晶粒径の大きい試料ほど速くなる傾向を示した。しかし成形体試料(石灰石を粉砕後加圧成形した試料)では個体差が小さくすべてが塊状試料に比べ速くなった。したがって実操業においては塊状石灰石を使用しているので塊状試料での特性を調べる必要がある。

 各地の石灰石の塊状試料と成形体試料を用い焼成後の生石灰の収縮率および消石灰の45μm通過量との一連の関係について調べた。工業用石灰石の塊状の場合、石灰石の結晶粒径が小さいほど生石灰の収縮率は大きくなり、消石灰の45μm通過量は多くなり、収縮率と45μm通過量に正相関があることがわかった(図1、図2)。

 これは細粒消石灰を得る指標になると考えられる。消石灰のX線回折強度比と生石灰の収縮率には負相関があることがわかった。また成形体試料の場合、生石灰の収縮率、消石灰の45μm通過量にたいし石灰石の結晶粒径の影響が小さく個体差が小さくなった。したがって焼成、消化に関する一連の研究において成形体にすれば石灰石の普遍性は得られやすいが、実操業では塊状石灰石を使用していることから、要求される性状の消石灰を製造するためにはそれぞれの塊状の性状を把握し適性な焼成、消化条件を求める必要がある。

 石灰石へ塩化ナトリウムを添加して焼成した場合の不純分の挙動を調べた。酸化鉄(Ⅲ)は還元雰囲気下で塩化鉄(Ⅱ)になって揮発除去される。(表1)

また微量重金属は塩化物あるいは金属元素まで還元されて揮発する。揮発性はそれぞれの融点、沸点ならびに蒸気圧の大小による。生石灰化の見かけの活性化エネルギーが炭酸カルシウムの生石灰化の活性化エネルギーの1/4程度を示した。不純分の除去率を左右する要因は、焼成温度、焼成時間、塩化ナトリウムの添加量、酸化還元雰囲気などの条件のほかに、石灰石の結晶粒径の大小およびクラックの有無ならびに含有粘土鉱物種など多岐にわたり複雑化している。

 石灰石の結晶粒径を考慮した工業用石灰石を用い、有機ハロゲン化物雰囲気(四塩化炭素またはHFC134a)中で焼成して得られた生石灰の収縮率および消石灰の45μm通過量について調べた。四塩化炭素雰囲気焼成は、空気雰囲気焼成に比べ石灰石の結晶粒径の影響は小さく、生石灰の収縮率は小さく、消石灰の45μm通過量は多くなることがわかった(図3)。

HFC134a雰囲気焼成は、空気雰囲気焼成に比べ石灰石の結晶粒径の影響は小さく、生石灰の収縮率は大きくなり、消石灰の45μm通過量はわずかに大きな値となった。四塩化炭素雰囲気焼成は、生石灰の収縮率を小さく(焼き締まりが小さい)し、細粒消石灰を製造しやすい方法である。反対にHFC134a雰囲気焼成は生石灰の収縮を促進(焼き締まりが大きい)し、低温での硬焼生石灰製造の可能性があることがわかった。また現在問題となっているオゾン層破壊物質で温暖化物質である有機ハロゲン化物の分解処理と同時に有効利用できる石灰焼成方法の可能性を見出した。

 実用化を目的とし立型連続試験焼成炉を用いて、石灰石焼成中に有機ハロゲン化物の一つであるCFC12を導入し、分解処理の安全性と生石灰および消石灰への影響について調べた。分解処理の安全性が確認され、生石灰の消化速度、活性度は焼成温度の影響が小さく、かさ比重は小さな値を示した。消石灰はSEMにより六角板状の結晶が多く観察されX線回折強度比も大きな値を示した。そして本方法の実用化の可能性を確認でき今後実操業への利用が期待できる。