東北地区大学図書館協議会合同研修会に参加して
図書館利用サービスグループ 田畑由美子
平成18年7月27日、山形市東北芸術工科大学において行われた標記研修会に際し、事例発表をすることになりました。テーマ「地域との共生に向けて」のもと、基調講演は東北芸術工科大学の赤坂憲雄大学院長・東北文化研究センター所長の「地域の時代の中で」でした。
事例発表は福島大学附属図書館情報サービス係長南俊二氏の「福島大学サテライト『街なかブランチ』におけるデリバリーサービス」、東北大学附属図書館情報管理課受入係木戸浦豊和氏の「東北大学附属図書館での企画展の取り組み」、本学の3件でした。
『 「ビジネス支援情報コーナー」の設置-創業による地域の活性化を目指して-』とのタイトルのもと、本年4月から開設したこのコーナーについて、設置経緯等について発表しました。
以下はその内容です。
○岩手大学情報メディアセンター
岩手大学の図書館は,平成16年度からの国立大学法人化によって,省令施設として位置づけられていた「附属図書館」と「総合情報処理センター」,それに「岩手大学ミュージアム」が統合されて「岩手大学情報メディアセンター」として出発しました。統合後の「岩手大学情報メディアセンター」のコンセプトは,「学内外における知的資源の中核的拠点として・・・学術情報の流通基盤と発信機能の強化を図り・・・地域の生涯学習・情報化に貢献する」という設置理念が掲げられております。
○図書館の組織
図書館長は,情報メディアセンター長が兼務し,情報メディアセンター長は情報メディアセンター担当副学長(学術担当理事)が兼務することとなっております。
図書館の職員組織ですが,平成17年7月から組織のフラット化のためグループ制に移行しました。グループ制により,従来の「図書情報係」と「雑誌情報係」の2係を「図書館資料管理グループ」に,「閲覧係」と「参考調査係」を「図書館利用サービスグループ」にして2グループ体制となりました。従来の「専門員」と「係長」は「主査」に,「主任」はそのまま,「係員」は「主事」と職名も変わっております。
従来,常勤職員のほかに非常勤職員を雇用して業務に当たっていたのですが,岩手大学の中期計画の目標である「業務のアウトソーシング化」の一環で,今年度から4人の非常勤職員の雇用をやめて4人の派遣職員に切り替えております。 専任教員は配置されておりません。兼務教員が1名任命され,教育研究に関わる部分について担当してもらっております。
企画グループと情報メディア課長は,3部門に関わる総務的な業務に当たっております。
○図書館の利用者数等
この数字は,すべて17年度末のものです。
- 蔵 書 数 835,657冊
- 入館者数 265,936人
- 学内者 230,287人
- 学外者 35,649人(約13%)
*学外利用者の登録数は新規・更新あわせて1,987人でした。
- 1日平均 818人
○「中期目標」(図書館関係)
「ビジネス支援情報コーナー」設置についての説明に移りたいと思います。まず,岩手大学の中期目標で図書館に関係する項目がご覧のようにいくつかあります。
- 教育に必要な設備,図書館・・・等の活用・整備
- 部門間の連携を強化し・・・社会貢献に関する学術情報の流通基盤と発信機能の整備
- 自主学習のための施設や学習環境の整備
- 地域社会等との連携・協力・社会サービス等に係る具体的方策
その中に「地域社会等との連携・協力・社会サービス等に係る具体的方策」とあり,このことについて岩手大学の図書館としては「図書館の一般開放」程度のことしかやっておりませんでした。
○設置の経緯
大学の知的財産を活用し,盛岡市の産業振興,雇用創出のために共同で行う事業
17年1月 |
・盛岡市との話し合い
・盛岡市は予算面で支援
・17年4月オープンを目指す。
|
17年3月 |
・オープン準備が整う。
・盛岡市とは「創業ビジネス支援情報コーナー」の名称で協議
|
17年4月 | ・当面,「リフレッシュ・コーナー」でオープン |
18年1月 | ・盛岡市との連携が困難 |
18年2月 | ・大学単独での実施に方針転換 |
18年3月 | ・盛岡商工会議所から創業・起業関連資料の継続的提供を受けることになった。
・相談窓口の紹介も可能
・中小企業庁(商工会議所)の施策と合致
|
18年4月 | ・盛岡商工会議所からの協力
・予定名称から「創業」を削除して「ビジネス支援情報コーナー」としてオープン
|
○設置目的
- 図書館と地域連携推進センターの連携により、学生に対して、創業、ベンチャー育成、コミュニティービジネス等の新事業創出に関する情報提供等を行う。
- 学外利用者に対しても、同様のサービスを提供する。
*当初の計画では優先する利用対象を市民としておりましたが,今まで説明しました経緯を踏まえて,学生の利用を前面に出し,「学外利用者にも同様のサービスを提供する」という表現に改めております。
○「ビジネス支援情報コーナー」の概要
設 置 | 平成18年4月 |
場 所 | 岩手大学図書館2階 |
面 積 | 68㎡ |
フリーアドレステーブル | 9人利用可能 |
貸出用パソコン | 8台 |
雑誌配架用書棚 5台 | 図書用書棚 2台 |
オンラインDB | 「日経テレコン21」 |
商工会議所提供 | ビジネス関連資料 |
*資料は,個人購入が困難なものを優先して、 特に最新のビジネス情報雑誌を購入 |
○配架しているビジネス関連情報誌
- 民力CD-ROM
- 会社四季報CD-ROM(各季)
- 河北年鑑
- 秋田魁年鑑
- 東奥年鑑
- 民報年鑑(名簿編・記録編)・(年鑑編・名鑑編)
- 山形県年鑑
- 韓国企業年鑑
- 業種別審査事典(第1巻から第8巻) ・・・など
○コーナーの写真
|
コーナーと呼ぶににふさわしく,他の利用者から遮られた一角にあります。南側の窓に向かって,両側に書架を配置し,スペースの真ん中にフリーアドレステーブルを置いてあります。 |
○テーブルの写真
|
フリーアドレステーブルです。向かい合って8人,正面に1人の9人が利用できます。各テーブルにはネットワーク接続のためのモジュラジャックが取り付けられており,「日経テレコン21」を貸出のパソコンで簡単に閲覧することができます。 |
○ビジネス関連雑誌の配架写真
|
ビジネス関連も含めた寄贈雑誌を配架しております。 |
○提供されるビジネス関連資料の一部の写真
| |
写真は,商工会議所から提供されている冊子の一部です。これらの小冊子は,中小企業庁,中小企業基盤整備機構,岩手県,岩手産業振興センター等が発行しているもので約40種類あります。これらの提供については盛岡商工会議所がそれぞれの機関から了解を取ってくれております。そのほか,商工会議所独自のパンフレットや各種情報誌も提供してもらっております。 |
○利用しているコーナーの写真
|
実際に利用しているコーナーの状況です。 |
○「支援体制強化」のイメージ図
このイメージ図は,広報の説明用として作られたものです。 |
|
○協力関係
- 学内では,「地域連携推進センターの全面的な支援」で行うこととされており,資料の提供は図書館で行いますが,相談の申し出があった場合には図書館から地域連携推進センターを紹介することにしています。相談レファレンスは地域連携推進センターのインキュベーションラボで担当することになっています。
- 学内には,学生の就職のための企業情報窓口と,学生の就職活動に関する相談窓口「ジョブカフェ岩手大学スポット」があります。これらは学生支援課が担当しており,「ジョブカフェ岩手大学スポット」には岩手県の「ふるさと定住財団」から専門のキャリアカウンセラーが派遣されております。しかし,学生支援課が担当する「学生の就職」とは重複することのないよう組織的に棲み分けをしております。
- 学外的には,唯一盛岡商工会議所だけとなっております。繰り返しになりますが,商工会議所は中小企業庁で進める創業等の促進施策を受けて,独自に促進事業を行っているようですが,関係機関から収集したビジネス関連情報資料の提供をしてもらっておりますし,もし,創業に関する相談をしたい利用者があれば,相談にも乗ってもらえることになっております。
○図書館職員の具体的な業務
- コーナーの設置によって図書館がどのような業務を行うのかというと,一つは言うまでもなく「ビジネス情報の提供」であり,具体的には最新のビジネス関連資料の収集と配架です。 二つ目は,日経テレコン21等のデータベースを閲覧したいインターネット利用者へのパソコンの貸出です。 三つ目は,コーナーに配架している資料は全体から見るとごく一部ですので,それ以外の資料を見たいとか,目的にあった資料に関するレファレンスを行うということです。 そして最後に,創業や起業に関して相談したいという利用者が来たときに,利用者の希望を伺った上で地域連携推進センターか盛岡商工会議所を紹介する という4点になると思います。
○コーナーの利用状況について
さて,コーナーがオープンして約4ヶ月が経とうとしておりますが,その間の利用状況 について説明します。
- 配架している資料の閲覧状況はわからない。
- 利用に制限はなく,誰でもコーナーに座れる。
- 計数カウンター等は備え付けていない。
- パソコンの貸出実績は 3人。
- 「日経テレコン21」以外のデータベース等はマルチメディア情報閲覧室,インターネット・AV コーナーを利用できる。
- ビジネス関係資料の需要(閲覧自由)はある。
- 資料に関するレファレンスはゼロ。
- 創業、起業相談窓口の紹介もゼロ。
○今後の課題
このコーナーはスタート時点からのつまづきもあって,予算面で大きな誤算がありました。コーナーとしてのコンテンツに特色を持たせて、資料の収集・充実を、図らなければならなかったのだと思いますが,予算の関係でこれができなかったことは非常に残念です。資料を充実するための予算確保をどうするのか頭の痛い問題です。
また,利用者層の把握はもちろんのこと,どのようなどれだけのニーズがあるのか把握ししていくことも今後の課題であるような気がします。
次に利用促進の方策です。現在,主な対象を学生としているために図書館のHP上で広報しているに過ぎません。学外に向けて大々的に広報するには,それなりに資料の充実を図る必要を感じます。
最後に評価の尺度や方法についてです。今のところ全く手探りの状態です。設置した以上は,利用状況の把握の方法はもちろんですが,活用実績やその効果等についても,評価期間を定めて,何らかの尺度で所期の目標達成度を見る必要があると思います。PDCAサイクル(計画・実施・評価・改善)で言うと,今の私たちは新しい分野のプランを立てて,次の段階の実行に移したばかりで,すべてがこれからという状態です。
このテーマの副題に「創業による地域の活性化を目指して」と並べましたが,スタートしてみると,実は主な対象を学生としています。地域の活性化に資するには今後の運営にかかっていると考えております。以上です。
この研修会で他大学の色々な取り組みも知ることができました。
最後になりましたが指導いただいた課長はじめ職員の皆さんにお礼を申し上げます。
←前へ||次へ→
目次へ