図書館長に就任して

岩手大学附属図書館
館長 中 嶋 芳 也

 平成14年6月に附属図書館長に就任し、微力ながら図書館の管理・運営の一端を担うことになりました。これからは図書館を利用する立場だけではなく、図書館利用者にサービスする立場で物事を考えなくてはならなくなりました。私の知る昔の図書館は、如何に多くの分野の、多くの蔵書を備え、「求める人に、求める本を、求める時に」如何に迅速に提供するかに主眼を置いてきたように思います。言い換えれば、私の図書館に対する認識はこの程度のものでしかなかったと言うことになります。しかし、館長として曲がりなりにも図書館の仕組みや舞台裏といったものに接してみて感じたことは、昨今の図書館は、急速に「電子図書館化」され、また、利用者のニーズの多様化により大きく様変わりしつつあることです。特に、電子ジャーナル化の進歩は日進月歩であり、学術雑誌さえも電子ジャーナル化され、何時でも、何処からでも、誰でも簡単にアクセスし、閲覧できるようになってきました。電子図書館は時間的、空間的な制約から解放されるという画期的な機能を持っていますが、この流れがさらに進んで、教育と研究に果たす大学図書館の機能や役割も根本的に見直される事態にまで発展し、図書館の有り様が一変する可能性があると予想されています。一方、冊子本は時代を超えて存在してきた馴染みと安定性の実績を持っています。図書館は、この冊子本と電子情報の双方の長所を引き立てる適当な組み合わせで両者の調和を図りつつ、学術情報を最も効果的に教育研究に活用するためのサービスの提供を行う施設へと発展すべきものと考えています。
 反面、大学図書館を取り巻く状況は決して生易しいものではありません。大学図書館は予算の伸び悩みと雑誌価格の恒常的な値上がりという二重苦の圧力にさらされています。また、図書館はコンテンツ提供ビジネスの視点などからも大きな影響を受けています。電子情報化社会は、図書館が提供してきたコンテンツの提供方法を変化させ、大量に、早く、多くの情報ネットワークへ配信する方法を確立し、そして、巨大なコンテンツマーケットが誕生しました。このマーケットがビジネスとして拡大していくとき、大学図書館の運用コストは増大する方向にあると言われ、深刻さを増してきています。大学図書館は今後においても電子ジャーナルの一層の充実と拡大に努めていくことになりますが、そのためには、大学として、体系的な電子ジャーナル購入のための基本方針、とりわけ購入学術雑誌の見直しとその経費負担のあり方等について早急に検討するとともに、私たちユーザは電子ジャーナル・ビジネスの今後の動向にも注目していく必要があると思います。ご理解とご協力を願う次第です。

←前へ||次へ→

目次へ