大学教員と図書館 ー果たせる役割とは?ー


 情報メディアセンター図書館部門兼務教員  武井 隆明

          


 2010年4月から,教育学部の井上祥史先生の跡を継いで兼務教員を引き受けることになりました.良く聞くことですが,兼務教員とは何か,よく分からないまま引き受けた記憶があります.井上先生は図書館職員と一緒に,「情報探索ガイド」を作成されたり,岩手大学リポジトリの立ち上げ等,有形無形に様々ご尽力されたことと思います.4年目を迎えて私は何をしてきたのかと振り返ってみても浮かぶものがなく,焦りを感じております.

 この間,岩手大学図書館も震災で本の落下や建物の増設部分の被害等に見舞われ,片付けた後も4月の余震で再度本の落下があったとも聞いています.幸いけが人はなかったようです.その後も館内の防災対策や震災資料の収集等で図書館職員はしばらく大変な様子でした.その上最近は,どこの図書館もそうですが,単なる本の貸し出し以外にも様々なサービスの形態が要求されるようになっています.また,教員の退職の際は研究室の図書を返還しますが,ここ何年間は退職教員も多く,返還図書の整理も大変なようです.そんな中でも図書館職員は日々努力され,工夫される姿を見ていて,頭の下がる思いがするばかりです.一方でいつか限界が来るのではという心配も感じています.そんなことから,直接の手助けにならない(下手をすれば邪魔になる?)にしても,教員にも何かやるべき責任があるかなと感じてきました.

 前置きが長くなりましたが,ある2冊の図書との出会いから,強引な気もしますが,教員として果たすことができる役割とは何かを考えてみたいと思います.
 出会った本で印象に残っている一つ目は,ダンネマン著,安田徳太郎訳「新訳ダンネマン大自然科学史」(全12巻,別巻1,三省堂)です.1980年第5刷発行(原著は1920 ~ 1923年)の物です.先ずは,こんな本(ダンネマン曰く「科学を一つのまとまったものとして述べた本」)があったのか.それも岩手大学の図書館に,という二重の驚きでした.その頃,学ぶのに難しいという理由で中学校からイオン等が消えましたが,そのことに関わって他の先生方と研究会をつくり,イオンは本当に難しいのかを考察する材料の一つとして,私はイオンや原子,分子を人類がどのように認識してきたのかを探っていました.調査中に参考文献として上記の書名を見つけ,早速OPACで検索したところ,電動書庫に2セット有るのを見つけたわけです.科学史といっても伝記風の物が多い中で,本書は科学を全体的に把握した科学史の本であり,発展の流れがつかみやすく,大変役に立ちました.ついでに,電動書庫の書籍は30冊以内までを1年間貸出(教員の場合)ということも初めて知りました.2003年のことでした.それから継続して借り続け,機会ある毎に開いては講義の参考にもしています.
 もう一冊は,理學士木村駿吉講述「物理學現今之進歩」(1891(明治24)年出版)です.これは木村氏による第一高等中学校文科生向けの講義資料です.明治期に日本で原子や分子がどのように教えられていたかを知りたかったのですが,上記の本の存在を知ったのが2006年7月のことでした.OPACで検索したところ,6巻すべて揃っているのは立教大学だけで,現物を見て複写するしかなかったため,資料利用依頼書を図書館に発行していただき,複写をしに行きました.実は本学の図書館にも在ることを最近知りました.遡及入力中で,2006年には入力されていなかったようです.今検索したところ,岩大には5巻揃っており,すべて貸し出し中で,私の手元にあります.盛岡高等農林の印があります.本学の図書館が捨てた物でないことがよく分かります.宝と感じる図書が一杯埋もれている気がしています.

 副題に―果たせる役割とは?―と書きました.上記の体験を通して感じたことは,先ずは貴重な書籍を揃えていただいた先輩方々に感謝したいということでしたが,その後に感じたことは,それぞれの専門家に岩大図書館の蔵書への責任があるのではということです.一つには,将来,宝の山と思ってもらえるような蔵書を揃えることができているのかということです.もう一つは今ある蔵書をそれぞれの専門の目で整理するべきではないかというものです.書架に制限がありますので,前者については何でも買えばよいというものでもなく,選別が要求されます.後者は現有図書への選別そのものになります.教員が退職すると返還図書も増えます.誰が何を必要とするか,なかなか判断は大変だとは思いますが,何か,蔵書への責任があるのではと感じるのは私だけでしょうか.様々な専門分野からの様々な提案もしていく責任があるのかなとも思います.例えになるかは分かりませんが,私が借りたような古くて複写しにくい物はどんどん電子化するなどが考えられないのでしょうか.
 今後も,図書館職員の充実はもとより,職員と教員が連携していく中で,大学の基盤設備の一つである図書館が,本来の意義を失うことなく,新たなサービスの要求にも無理せずに応えられるような運営ができるように願っております.

 付け足しになりますが,やはり気になることは,現図書館の構造上の問題でしょうか.特に気になったのは,2階が受付カウンターになっていること,また,本学くらいの学生規模にしては図書館内の学習スペースの狭さ,最近では書庫の狭さも心配されているようです.図書館は教育研究を支援する中心的な役割を担っている空間です.ソフト面だけでなく,ハードの面でも充実するように願っております.




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